第78回 チーズであってチーズでない?イタリアのリコッタ 2
今月も前回に引き続きリコッタの話題です。日本でも“リコッタチーズ”と呼ばれているように、リコッタはチーズの一種という認識ですが、タイトルにあるように、実はイタリアの法律ではリコッタはチーズではありません。そもそもチーズとは、動物の乳由来のカゼイン(乳に含まれるリンタンパク質の一種。牛乳においてはタンパク質のほぼ80%を占めている)の純粋な固まりを指すため、カゼインが凝固した後に残ったシエーロ(ホエー・乳清)を加工したリコッタは、乳製品の一種ではあるものの、チーズには該当しません。つまり、リコッタと呼ぶのが正しくて、リコッタチーズの名称は間違いなのだそうです。
このように乳からチーズをつくった後の、副産物としてでき上がるリコッタは、チーズ生産の盛んなイタリア全土で広く愛されています。砂糖や蜂蜜を加えてデザートのクリームに、卵と合わせて前菜のスフレに、さらにパスタの具になったりと、イタリア料理には欠かせない食材です。
リコッタは劣化が早く酸味が出やすいため、生産から数日以内に消費する必要がありますが、そんなリコッタを長く楽しむため、イタリアの一部の地域、特に北イタリアのヴェネト州の山脈地域では、暖炉に吊し燻製する習慣があります。ブナ、オーク、針葉樹などの燻煙の香りを含んだこのリコッタは、保存性が高まり数カ月間保存しておけるようになります。また、南イタリアの多くの地域では、塩を添加しリコッタの余分な水分を取り除くことで長期保存します。その乾燥したリコッタは、擦り下ろして使われます。
高タンパク質、低カロリーなその特性から、リコッタとほうれん草が詰まったパスタはラビオリ・ディ・マーグロ(痩せたラビオリ)と呼ばれています。痩せたラビオリなんて聞くと、味気ない淡白な味わいを想像してしまいそうですが、実際はミルクのクリーミーさを感じるリッチな味わい。脂肪分が少なくヘルシーでありながらも、それを感じさせないクリーム感とミルクの風味。それこそがリコッタの素晴らしいところだと思います。