100年を超える集客環境づくりのノウハウを公共施設の運営管理に活かす
株式会社乃村工藝社

  • 取材:種藤 潤

 日本を代表する空間創造企業として知られる乃村工藝社が、2000年代半ば、それまでの「デザイン・設計」、「製作・施工」の枠を超えた「運営・管理」分野にのりだした。それは「PPP事業」という。歴史は浅いが、日本の「官民連携」に乃村のノウハウは着実に浸透していた。

「指定管理者制度」により同社が運営している都内唯一の施設「多摩六都科学館」。住宅街の中でひときわ存在感ある建物だ

2005年よりPPP事業を開始 スタッフ200名を超える体制

 「PPP事業」とは、「Public=公共」と「Private=民間」の「Partnership=連携」による、新しい公共サービス事業・ビジネスモデルのことで、「官民連携」と呼ばれることも多い。日本では、1999年7月に民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律「PFI(Private Finance Initiative)法」が制定。翌年、その基本方針が内閣総理大臣によって策定され、社会的な「官民連携」の環境が整った(ちなみに、後述の「指定管理者制度」は、2003年の「改正地方自治法」制度導入が実質のスタートとなった)。

 「PPP」には、「業務委託・委託管理」(資産保有・施設整備は官、運営・管理は民)や「指定管理者制度」(資産保有・施設整備は官、運営・管理は民だが、公の施設の管理権限は民が有する)、「BTO=Build Transfer and Operate」(民が施設整備を行い、完成直後に所有権を官に移転、民が運営管理を行う)、「コンセッション=公共施設等運営権」(所有権は官、事業権は民)などさまざまな形が存在するが、同社は2005年より「指定管理者制度」として「PPP事業」を開始。現在は「業務委託」を含む15の文化施設の「運営管理」事業を展開し、総勢200名以上の運営スタッフ(社員)により、年間200万人を超える来場者、利用者への対応を行っている。

同社「多摩六都科学館」統括マネージャーの廣澤公太郎さん(左)と、同社第三事業本部 PPP事業部の伴野保(ともの・たもつ)事業部長

5年間で年間来場者数約9万人増
地域の交流拠点にも

 乃村工藝社が運営している全国に15ある同社PPP事業拠点の中で、東京都から運営管理業務を受託している東京都水道歴史館をはじめとする4施設とは別に、「指定管理者制度」により運営している都内で唯一の施設が、「多摩六都科学館」だ。

 同施設は、多摩北部都市広域行政圏(小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市、田無市、保谷市の6市〈現在は田無市と保谷市が合併、西東京市となり5市〉)の一部事務組合が設置する、全国で唯一の博物館施設である。1994年3月の開館以来、2004年には元NHKスペシャル番組部・チーフプロデューサー、宇宙・天文分野の解説員等を歴任した髙柳雄一氏を館長に招聘したり、2012年にリニューアルしたプラネタリウム投映機「ケイロンII」が最も多くの星を投映するプラネタリウムとして世界一に認定されたりと、話題の多い科学館として全国的に知られている。

 館内は大きく6つのゾーンで構成される。「展示室1」は光や元素など科学を実体験する「チャレンジの部屋」、「展示室2」は自分とからだを学ぶ「からだの部屋」、「展示室3」は都市生活を支える技術と仕組みを学ぶ「しくみの部屋」、「展示室4」は身近な環境と生き物を学ぶ「自然の部屋」、「展示室5」は時空間を超えた大地の成り立ちを学ぶ「地球の部屋」、そして世界最先端のプラネタリウムを要する「サイエンスエッグ」があり、順を追って巡ることができる。そのわかりやすいゾーン分けと、大人も一緒に楽しめるきめ細やかな展示や解説は、何度でも訪れたくなる。

親子で科学の実験や観察ができる「ラボ」を設置し、地元市民を中心とした利用者と施設スタッフがオープンにつながる仕組みを構築している

 そこには、乃村工藝社が力を注ぐ、地元とのつながりを強める要素が隠されている。ひとつは、展示室2、3、4、5に設置されている「ラボ」だ。ここは、利用者とスタッフのコミュニケーション活動のハブとして、さまざまなアクティビティが提供されている。そしてもうひとつは、「つながるスポット」だ。地元地域の研究機関や大学、企業、NPO、ボランティアとの連携で、さまざまな体験や展示が行われている。

 こうした取り組みが功を奏してか、同社が「指定管理者」となって5年目の2016年度には、来場者がそれまでの記録より約9万人増の25.3万人を達成したという。

「ラボ」は利用者とスタッフのコミュニケーションの場

ウィズコロナも見据えた「社会から選ばれるノムラ」へ

 同社がこの施設の指定管理を始めたのは2012年4月。当時から統括マネージャーとして勤務する廣澤公太郎さんは、これまでの8年を次のように振り返る。

 「もともと設計屋ですから、施設運営は素人。ですが、徹底して企画の内製化を心がけ、地元の人たちとの交流を図れる方法を積極的に取り入れました。また、内製化はスタッフの能力アップにダイレクトにつながり、ボランティア・市民活動の皆様との連携は地元市民の活躍の機会となりました」

 PPP事業部を率いる、同社第三事業本部の伴野保事業部長は、受託する15施設の中でも「多摩六都科学館」の存在は大きいと語る。

 「弊社でPPP事業に携わる社員は約220名ですが、そのうちの4割にあたる55名が多摩六都科学館のスタッフです。また、売上規模も他の施設よりも大きく、活動範囲も広い。PPP事業の中核的存在と言えると思います」

 とはいえ、全社的に見ればPPP事業の割合は決して大きくない。そもそも「官民連携」という性質上、仮に売上が増加しても、一定以上の売上は返還が求められるケースもある。それでもPPP事業を行う意味は大きいと、伴野事業部長はいう。

 「PPP事業の指定管理者となること自体、『社会から選ばれるノムラ』であることを示す上で、非常に大きな役割を果たします。また、行政の代行者として事業を運営管理することで、入ってくる情報の質が変わります。また、行政関係者や利用される市民の皆様との信頼関係も構築できる。売上や利益だけでは測れない価値がPPP事業にはあります」

 新型コロナウイルス感染拡大により、PPP事業も大きな打撃を受け、その対応に追われているのが現状というが、今こそ「社会から選ばれるノムラ」の本領が発揮されると、廣澤マネージャーはいう。

FC東京や明治薬科大学など、地域の研究機関や企業などとの共同企画も積極的に取り入れる

 「人が集まりにくい状況であれば、3Dを活用したデジタル展示ツールを作り、家でも館内を体感できる環境を作る。また、そうしたツールを活用した出張授業をする。乃村が培ってきたデザイン・設計のノウハウを活かせば、コロナ下だからこそできる市民とのコミュニケーションの方法はあると思います。今はまだ途中ですが、今後の多摩六都科学館にもぜひ期待してください」

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