多摩水道運営プラン2017の総仕上げへ
多摩地区の水道事業は、その多くが昭和20年代後半以降に各市町によって創設されたが、昭和30年代後半以降の急激な人口増加等を背景とした水源不足、区部や各市町間の料金水準等の格差といった課題に対応するため、市町からの要望に基づき、昭和40年代後半以降、順次、都営水道への一元化が進められてきた。現在では、多摩地区の26市町が都営水道となり、給水人口約396万人にのぼる大規模水道となっている。都営一元化により水源不足等の解消といった所期の目的は達成されたが、平成23年度末まで各市町に地方自治法に基づく事務委託を行っていたことから、多摩地区の都営水道は区部とは異なる課題も有している。ここでは、そうした課題の解消に向けた「多摩水道運営プラン2017」(計画期間:2017~2020年度)に基づく取組を中心に紹介する。
《多摩地区水道の再構築》
多摩地区の都営水道では、事務委託が解消されるまで、市町が施設を管理し配水してきたことから、多くの配水区域がそれぞれの市町域内で設定され、地盤の高低差等の地域特性が必ずしも考慮されたものとはなっていない。
また、小規模な配水区域が数多くあるため、施設管理が非効率で、スケールメリットが十分に発揮できていない状況にある。
こうした課題を解決するためには、水源や地形、地盤の高低差や給水件数等といった地域特性を踏まえ、市町域にとらわれない合理的かつ適切な配水区域への再編と、配水区域の規模に応じた施設への再構築を進めていくことが不可欠である。
このため、それぞれの地域特性に応じて、多摩地区を①多摩川上流地域、②多摩川左岸西部地域、③多摩川左岸東部地域、④多摩川右岸地域の4つのエリアに区分し、再構築を進めている。
配水区域の再編は長期間にわたる取組となるが、山間部や市街地など各エリアの地域特性に応じた整備の方向性に基づき、計画的かつ着実に整備を推進している。
主なものとしては、現在、多摩川上流地域において、区域の拠点となる千ヶ瀬浄水所の更新工事を実施するとともに、多摩川左岸東部地域においては、区域の拠点となる多摩北部給水所(仮称)の新設工事を進めている。
《送水管整備》
多摩地区では、市町営水道の都営一元化と並行して、順次送水管の整備を進めてきたが、多くの給水所は一系統の送水管で受水しているなど、依然として広域的なネットワークが不十分な状況にある。
このため、災害や事故時等に送水管が機能停止した場合、給水所等への送水が確保できない恐れがあるほか、昭和40年代に整備され老朽化が進行している送水管の更新事業が困難となっている。こうした課題を解決するためには、広域的な送水管ネットワークを構築し、バックアップ機能を強化する取組を進めていくことが不可欠である。
すでに、鑓水小山給水所を経由して聖ヶ丘給水所と拝島給水所を結ぶ多摩丘陵幹線を完成させ、2014年度から全線で運用を開始するとともに、現在は、拝島給水所と東村山浄水場を結ぶ多摩南北幹線(仮称)の整備を進めている。
完成すると、多摩丘陵幹線と合わせて約50㎞にわたる広域的な送水管ネットワークが構築される。これにより、大規模浄水場から複数系統による送水が可能となり、災害や事故時におけるバックアップ機能が向上するとともに、既設送水管についても計画的な更新が可能となる。
《様々な脅威への備え》
政府の地震調査委員会によると、首都直下地震は、高い確率で発生すると予測されており、地震に対する備えを引き続き進めていく必要がある。
東京都防災会議が発表している被害想定では、多摩地域を震源とする多摩直下地震が起きた場合、最大震度7に達する地域が出るとともに、震度6強の地域が広範囲に及ぶとされている。
また、昨年10月の台風19号では、山間部において道路崩落により埋設されていた水道管が損傷し、奥多摩町では約2700戸の断水が発生するなどの被害を及ぼした。
このため、現在は多摩地区の浄水所、給水所等施設の老朽度、施設が停止した際の影響の大きさ、バックアップ機能の確保状況などを踏まえて、計画的に耐震補強工事を実施しているとともに、停電が発生した際にも、平常時と同様に給水できるよう自家用発電設備の増強にも取り組んでいる。
また、風水害対策として、あらゆるリスクを洗い出し、短期及び中長期的な対策を順次実施している。
水道管路についても、東日本大震災や昨年の台風襲来時において、1か所も被害がなかった抜け出し防止機能を有する耐震継手管への取替えを推進し、災害時の断水被害を最小限にとどめるとともに、被災した場合でも復旧日数を短縮できるよう努めている。
これまで、救急医療機関、大規模救出救助活動拠点などの重要施設への供給ルートを優先的に整備しており、引き続き、避難所や主要な駅への供給ルートの整備を進めていく。
一方、災害や事故等により断水が発生した場合には、応急給水や復旧活動も重要となる。このため、平常時から、市町が実施する消火栓等からの応急給水用資器材を使用した訓練への協力・支援など、多様な主体と連携した訓練等の実施により、危機対応力のいっそうの強化を図っている。
さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により、来年度へと開催が延期された東京2020大会を控え、テロ等への対策も課題となっている。多摩地区の水道施設についても、浄水施設の覆蓋化や、周辺の自治会・住民等と連携した警戒の実施など、種々の対策を強化している。
《お客様サービスの向上》
日々進化するICTを活用し、お客さまサービスの向上にも努めている。水道局では昨年7月に東京都で初めてスマートフォン決済によるキャッシュレス支払いを導入した。今年2月には多摩お客さまセンターにおいて、AIを活用したお客さま対応を開始している。
3月からはWEBから口座振替の申込みができるようになった。これにより登録までの期間がそれまでの1ヵ月~2ヵ月が1日~2日と大幅に短縮されている。
また、水道スマートメータを導入するプロジェクトが具体化している。実現すれば、使用水量の見える化にとどまらず、様々なサービス展開につながる可能性がある。トライアルプロジェクトとして2024年度までに約10万個、2030年代には全戸導入を目指している。
《取組の進化と発信》
計画最終年度の総仕上げの時期を迎えるにあたり「多摩水道運営プラン2017~強靭で信頼される広域水道へ~」で掲げた、ハード・ソフト両面にわたる各種取組を着実に進めていく。
一昨年の水道法改正による官民連携や広域連携の推進の流れを受け、多摩地区においても、水道局が所管する政策連携団体2社が統合して、今年4月に誕生した東京水道株式会社との連携を深めていくとともに、統合を契機として、政策連携団体が担っている窓口や受付業務などの見直しを進め、お客さまサービスのいっそうの向上を目指していく。
また、広域化の先駆的事例である多摩地区水道事業の都営一元化の経験や、配水区域の再編・整備の取組について、他事業体の参考に資するよう、ノウハウを整理、提供していく。
水道局では、今年7月10日、「持続可能な東京水道の実現に向けて 東京水道長期戦略構想2020」を公表した。
今後は、この構想に基づいて中期経営計画の策定や施設整備マスタープランを改定する予定である。これらを踏まえて、多摩地区においても幅広い観点から課題やニーズを分析し、十分に検討を重ね、中長期的な取組をいっそう力強く進化させていく。