海上保安庁 横浜機動防除基地 第一機動防除隊 隊長
文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。 今号で紹介するのは、東京湾横浜港内に基地を持つ、海上に流出した油、有害液体物質、危険物等の防除(=防ぎ取り除く)措置に対応する、海上保安庁唯一の専門部隊「機動防除隊」である。約5年前に本稿で取り上げたが、求められる防除措置の形にも変化が見られた。
庁内唯一の海上防災業務の専門部隊
25年間で出動400件を達成
今年9月1日、機動防除隊の拠点である横浜機動防除基地では、出動400件を記念する式典が行われていた。
同隊が発足したのは1995年。日本が「OPRC条約」(船舶の大規模事故による油流出への準備、対応、協力体制整備を目的とした条約)を批准したことにより、第三管区海上保安本部救難課内に創設された。当初は2隊8名体制だったが、1997年、島根県隠岐島沖で「ナホトカ号重油流出事故」が起こったことから、翌年に横浜機動防除基地を新設、隊員も3隊12名となった。そして2007年の「OPRC条約HNS(有害危険物質)」批准に伴い、HNS体制強化を目的に現行の4隊16名体制となり、現在に至る。
4隊のうちのひとつ、第一機動防除隊を率いる細川祐一隊長は、400件の出動件数について次のように語った。
「機動防除隊の活動は、海上保安庁のなかでも、一つの事案に関わる期間が長いのが特徴です。対応範囲も全国に及びます。それらのことを考慮すると、400という数字には大きな価値があると、改めて思います」
求められるのは「機動力」と「調整力」
一事案にかかる時間の長さ。それは、同隊の活動を具体的に見ていくとよくわかる。
まず、事故発生の連絡を受けると、待機している部隊は車両や巡視船艇、航空機等で現場に駆けつけ、油や化学物質の流出状況やその性質を調査する。次に、調査結果をもとに原因者(防除措置義務者)に対して防除活動の方針作成の指導、助言、調整を行う。そしてその方針を達成するための指導・助言を行い、状況に応じて自らも防除措置を実施する。
「機動防除隊自身が活動を行うイメージを持たれるかもしれませんが、あくまでも主体は原因者であり、私たちは専門家として知識や経験を提供し、現場をサポートするのが役目です」
これら以外にも、油や有害物質等の流出があった際は、様々な海事関係者とともに、事案収束に向けて調整を行っていく。そのため、一事案に対して関わる期間が長くなるのだ。
「我々に求められる資質はいろいろありますが、あえて挙げるとすれば、現場にいち早く駆けつける『機動力』と、現場の『調整力』だと思います」
「海の知恵者」として国内外で知識と経験を広める
機動防除隊は、防除措置の知識と経験、技術を持つ専門部隊として国際的にも評価され、『海の知恵者』とも呼ばれている。そのため、活動範囲は海外にも及び、シンガポール、韓国、フィリピン、スリランカ等、そして今年7月に起こったインド洋モーリシャス沖での貨物船座礁事故でも、国際緊急援助隊専門家チームとして現場に赴いている。並行して、講習会や技術研修指導と、知識と経験を広げる活動も国内外で行っている。
機動防除隊は、防除措置の知識と経験、技術を持つ専門部隊として国際的にも評価され、『海の知恵者』とも呼ばれている。そのため、活動範囲は海外にも及び、シンガポール、韓国、フィリピン、スリランカ等、そして今年7月に起こったインド洋モーリシャス沖での貨物船座礁事故でも、国際緊急援助隊専門家チームとして現場に赴いている。並行して、講習会や技術研修指導と、知識と経験を広げる活動も国内外で行っている。
細川隊長曰く、近年は国内における大規模な油等の流出事案への対応は減少傾向にある。しかし、先のモーリシャス沖事故がラムサール条約登録湿地付近であったこともあり、環境保全の観点からよりいっそうの機動力と安全性の確保が求められることが予測されるという。
また、近年は台風やゲリラ豪雨などの災害に伴い、新たな形の防除活動も求められるようになっている。
「昨年8月に佐賀県大町町で起こった事案では、豪雨により鉄工所が浸水して油が流出し、海上ではなく内陸での防除活動が求められました。今後はこうした事態も想定しなければなりませんし、さらには大地震の際にも、同様の対応が求められる可能性があります。過去の常識にとらわれず、あらゆる事案に備え、隊としてはもちろん、海事関係者への危機意識の共有、教育の徹底をしていきたいと思います」
佐賀の事例、そして地震による防除の可能性は、東京も例外ではない。都民の生活のなかにもリスクがあり、それに対応してくれる存在が身近にいることに、改めて感謝したい。