海上自衛隊 横須賀衛生隊 第2衛生科 2等海曹
文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。新型コロナウイルス感染の口火を切ったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」のクラスター感染。その現場に、自衛隊は延べ約2700人を災害派遣し、医療・生活支援や輸送活動等を行った。実際に活動した海上自衛隊衛生隊員に話を聞くと、まさに「命がけの仕事だった」ということが理解できる。
高まる緊張感のなか 陽性患者の搬送に従事
今年2月3日、横浜港に接岸したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で、新型コロナウイルスの大型クラスター感染が発生。その現場で医療・生活支援や輸送活動などに奮闘する姿が報じられ、私たちも目にしてきた。そこに集結したのは厚生労働省、DMAT(災害派遣医療チーム)などの医療関係者、そして陸海空の自衛隊員(延べ約2700名)だ。
「まだ正体のわからないウイルスが蔓延するなかでの活動でしたので、作業の都度手袋を変更する、二人一組で防護服を着脱して隙間がないことをチェックするなど、感染に備えてより高いレベルの防護基準を自衛隊で設け、万全の状態で任務に臨みました。その結果、自衛隊員からは一人も感染者を出すことなく任務を完遂でき、本当に良かったです」
そう語る佐藤敬大2曹が所属する横須賀衛生隊は、対応が始まった初期段階から現場に入り、陽性患者を医療機関へ搬送する要員を派遣。その後も、佐藤2曹を含む看護師等の資格を持つ隊員は船内での対応を支援した。その他の任務も含め、横須賀衛生隊は5月末まで隊員を派遣し続けた。
普段は主に健康診断や身体検査を実施
緊急時は災害派遣にも
機動査察隊の隊員は7名。うち1名は毎日勤務(日中勤務)で、他の6名は2名1組になり、3交替制で勤務している。
業務は、その名の通り「査察=建物内が消防法に基づく基準に適しているかの確認等」と、「防火管理=建物管理者等が行う防火管理業務(消防計画の作成や自衛消防訓練の指導等)」の2つで構成される。その日の担当となる2名はこの2業務を兼務し、遂行する。
日中は、主に出張所内での業務だ。管区である歌舞伎町1丁目、2丁目、新宿3丁目にある商業ビル等からの査察、防火管理に関する問い合わせへの対応や、場合によっては現場に向かって指導等を行う。
そして17時になると、機動査察隊の制服と荷物一式(写真)を持ち、朝までかけてその日割り振られた管区内の建物を回り、防火管理や避難に使用する階段等の維持管理などの状況をチェックし、必要に応じて指導する。
ちなみに、隊創設から約1年が経過したが、管区全体の対象となるほぼすべての建物にあたる700棟を一通り査察できたという。
Cool Head. But Warm Heart.
坂口亮太主任は、西東京署、渋谷署で予防課に勤務。渋谷署時代には、現在続々と完成している渋谷各所の最新商業ビルの予防担当として、建物の消防面での安全性をチェックしてきた。その間、庁内の予防専門資格の最上位にあたる「上級予防技術」を取得。庁内屈指の予防業務のスペシャリストとして同隊に配置された。
ただ、どれほどのスペシャリストといえども、都内はもちろん、全国随一の繁華街である歌舞伎町が対象管区である。いくらキャリアのある坂口主任が対応しても、素直に指導に従うビル管理者や店舗ばかりではないという。
「年齢が上の相手も多いため、私たちの指示に従わないことも少なくありません。大声をあげて威嚇されたりすることもあります。そのような場合は、具体的に法律を示し、その指示に従わず、火災が起こると、どんな悲惨な状況になるのかを、写真などでリアルに示すようにしています。また、何度も足を運ぶことで、相手の反応は変わってきます」
大半はこうした対応で納得するそうだが、それでも従わないこともあるという。その場合は、機動査察隊の持つ強力な権限を示す。
「我々はその場で書面を作成し、必要に応じて行政処分を出すことも可能です。ただ、それは最終手段。我々がそれほど強い権限を持つという事実を伝えると、ほとんどの人は従います。彼らも法的な措置を受けるデメリットをよくわかっていますから」
どんな対応をされても、怒らず、焦らず、事実を冷静に伝える。この地道な活動の積み重ねが、歌舞伎町のまちをより安全、安心に近づけているのだ。