第74回 魚のイタリア語名はさまざま
イタリア語の外国語辞書には、あまり魚の名前が載っていないという話をよく聞きます。イタリア語には、魚の名前があまりないの? と思われるかもしれませんが、理由はその逆で、魚の名前があり過ぎるからなのだそう。イタリアで暮らしていた頃、働く地域やお店を変える度に、魚介類の呼び名が変わり、その都度、新たな名前を覚えた記憶があります。北部や南部のその地域ならではの名前もあれば、極限られた地域のみで使う名もあり、思いがけぬ場所で共通の名だったりするのを、不思議に思ったものです。
買い物に行った魚屋の店先で、伝えた魚の名前に不思議な顔をされると、果たしてそれは、「外国人である私の発音が悪い?」それとも「魚の名前が違うのか?」と、いろいろ言い換えてみたりしたものです。
すると「あぁ!○○」と、さらに異なる名前が出てくることもあれば、単に言い直されることも。今になって思うと、外国人がいくつもの魚の名前を口にする光景自体、若干滑稽だったのかなとも思います。
サルデ、サルディーネ、アッチューゲ、アリーチェ。これらの名前は一般的なイワシの呼び方。サルデとサルディーネはニシン科サルディナ属のヨーロッパマイワシ。サルデは単純に鮮魚を指すことが多いのに対し、サルディーネはオイル漬けにした状態を指す場合が多いです。次に、アッチューガとアリーチェは、カタクチイワシ。ナポリやシチリアの方言を語源とし、発酵した魚の内臓で作られたガルム(魚醤)を意味するラテン語の影響を受けているアッチューガは、アンチョビを作るときに用いる塩蔵したカタクチイワシを指します。シチリアの方言を語源とし、小さな魚を意味するラテン語やギリシャ語に影響を受けているアリーチェは、カタクチイワシを開き(骨を取り除き)、オイル漬けにしたものがイメージされることが多いです。
この様に、同じ魚でも異なる名前が存在するのは、それぞれの語源の違いが、少なからず現代の言葉の中に影響しているからです。