第72回 果物としても蜂蜜としても愛されているネスポレ
今月はイタリアをはじめ、ヨーロッパでも親しまれているビワ(枇杷)の話題です。ビワの原産は中国南西部ですが、ヨーロッパに伝わったのは日本古来の品種で18世紀のこと。フランス・パリを経て1812年にナポリ植物園へと伝わったことから、イタリアではネスポレ・ジャッポネーゼ(日本のビワ)と呼ばれます。後に、ティレニア海沿いのリグーリア州、カラブリア州、シチリア島などの温暖な地域において、その栽培が始まり、より大きな果実をもつ品種が食用となり、この時期の果物として親しまれるようになりました。イタリア北部の寒い地域においても、街路樹や庭木としてネスポレの木を見かけることがあります。しかし、この地域では、気温が下がると花粉を媒介する蜜蜂たちが越冬のため巣の中に閉じ籠ってしまうので、受粉がなされず実がなることはありません。
11〜2月の冬の時期になると、その枝先にはまるでブドウの様に、蕾や花が鈴なりにつきます。蕾と花が、産毛のような細かな起毛で覆われていることから、学名はギリシャ語で「産毛」と「ブドウ」を意味する2語を組み合わせた造語「エリオボトリア」。花は、見た目は目立たないものの芳香を放ち、あたり一面に漂うその香りに蜂たちが覚醒し、蜜を集めるため花から花へ飛び回り受粉します。このネスポレの蜂蜜はイタリアではパレルモ地方に限定された貴重な単花蜂蜜として知られます。
まるで香りづけしたかの様な華やかで、フローラルなその香りは、まさにネスポレの花そのものを思わせるとともに、化粧品や香水の様な甘い香りも感じさせます。はっきりとした甘みと、わずかな酸味、ビターアーモンドの様な苦味も感じられ、リンゴの実、ユリの花の香りやフルーツ味のチューインガムを思わせる複雑な味わい。ほかに類をみない唯一無二の、風味豊かで華やかな蜂蜜。
そもそも産地が非常に狭く、厳冬にはその収穫量も激減することから、ネスポレの蜂蜜は非常に珍しい蜂蜜なのです。