第71回 南イタリアの赤いオレンジ “アランチャ・ロッサ” 2

  • 記事:加藤 麗

絞る直前に果実を冷水で冷やすと、より多くのジュースが絞れると言われている

 今月もアランチャ・ロッサ(ブラッド・オレンジ)の話題です。まるでトマトジュースのような真っ赤なアランチャ・ロッサのジュースは、イタリアではとてもポピュラーな飲み物です。イタリアを旅行した人であれば、機内サービスやホテルの朝食などで、口にしたことがあるのではないでしょうか。私もまた、アランチャ・ロッサとの出会いはジュースが先だったので、「きっとその果実は、グレープフルーツのルビー色を濃くしたような華やかな色合いなはず」と思い込んでいました。いざ果実の皮をナイフで剥いてみると、決してきれいとは言い難いまばらな色合いに、「あのジュースの色は着色だったの?」と若干がっかりした覚えがあります。しかし実際に絞ってみると、茶褐色とも言えるような果肉の濃い赤とオレンジ色が中和して、あら不思議!見慣れたブラッド・オレンジジュースのきれいな色になり、再度驚いた記憶があります。

 さてシチリア島には、EUの制定する保護指定地域表示「IGP」を持ったアランチャ・ロッサが3種類あります。12月に収穫が始まり、糖度が高いタロッコ種はイタリアで最もポピュラーな品種。血液のような濃い赤い色合いと酸味の強さが際立つモロ種の収穫は2月頃まで。ジュースに最適な品種のサングイネッロ種は、甘みが増し最適な熟度に達する2〜4月が収穫時期です。

 このように冬の果物として知られるアランチャ・ロッサの旬はとても長く、通常12〜5月上旬まで、品種を変えながら市場に出回ります。

 他のオレンジ同様、その主成分はビタミンCをはじめとするビタミン類。アランチャ・ロッサは、それらの成分が特に凝縮されており、免疫システムを強化する果実とも呼ばれます。豊富なミネラル群や、葉酸を含むことから、島では特に妊娠中の女性はアランチャ・ロッサを積極的に食す習慣があります。

 また、ブルーベリーやアサイベリーなどの赤い果実に多く含まれ、抗炎症作用で知られる有機化合物の一種シアニジン。アランチャ・ロッサのシアニジンは、土壌の性質、気候、火山性気候による朝晩の寒暖差といったこの島の微気候の賜物。色素沈着が起こり、初めて加わる栄養素であり、その色合いこそが栄養素の結晶と言えそうです。

加藤 麗 かとう・うらら(旧姓 大庭)

加藤麗東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F.(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

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