東京都の地水対策と今後の計画
昨年、首都圏を襲った3つの大きな台風と大雨。多くの河川で堤防の決壊を見ることとなり、多摩川水系では浸水被害が観測された。国土交通省関東地方整備局、東京都建設局、東京都下水道局の各部局では、これまでどのような施策を行ってきたのか、また今後の計画はどんな内容なのか。広く治水行政について話し合っていただいた。
ダムや調節池が河川決壊を防いだ
—本日はお忙しい中、皆さんお集まりいただきありがとうございます。昨年9月、10月に15号、19号、21号という3つの大きな台風が首都圏を襲いました。それ以外にも激しい集中豪雨があったりと、まさに災害の年になってしまいました。
初めに国土交通省の佐藤部長から、首都圏に降った過去の降雨量と昨年の台風の降雨量を比較し、発災状況について教えていただきたく思います。
佐藤 台風19号で実際降った雨は、関東一円において過去最大もしくは今回のほうが大きいという認識です。特に東京を流れる多摩川でも檜原辺りでは過去最大雨量を約200㎜上回るという尋常ではない量が降ったのが今回の雨の特徴だと思います。
河川の水位は、昔と比べて改修が進んでいるので、同じように比べるわけにはいきませんが、ほぼ過去最高になっています。
今回大きく雨が降ったのは、地域的にいうと箱根から群馬県の八ッ場ダム辺り、それと茨城県の北部です。決壊したのは東京都内の河川ではありませんが、荒川水系の越辺川と都磯川、茨城の久慈川、那珂川の3水系4河川の11か所です。これらの河川の特徴を端的にいうと、ダムも調節池もないということです。つまり、いわゆるダムや調節池がある河川については今回は決壊を免れたということです。
—コントロールできたということですね。
佐藤 はい。特に八ッ場ダムが10月1日からちょうど試験運用をしており、2週間たたずに満水になりましたが、大きな効果があったと思っています。ダムの緊急放流についても、国と水資源機構が管理するダムについては、今回これだけ雨が降っても緊急放流をせずに済んだという点で、ダムの操作もうまくいったのではないかと考えています。
東京では、埼玉から東京に入るところにある荒川の第1調節池が、容量3900万m³という大きな洪水調節能力があります。ここには3500万m³貯まりました。東京都側にも大きな効果があったと考えています。しかし、あと数時間雨が継続して降ったら大変だったということも事実だと思います。今後も施設整備をしていく必要があると考えております。
—東京都の建設局としてはいかがでしょうか。
奥山 多摩西部では総雨量600㎜を超える雨が降りました。戦後最悪といわれた狩野川台風でも444㎜ですから、いかに今回の総雨量が大きかったか。24時間雨量でも観測史上1位を記録した地点が多数ありました。
区部については、総雨量は300㎜程度。多摩に比べれば少ないですが、それでも大きな量です。これまで長年かけて整備してきた河川施設が効果を発揮して、大きな被害が出なかったということができます。
この600㎜という雨によって、秋川や南浅川など7河川で溢水しましたし、河川護岸についても10か所で崩壊し、その他にも小さな損壊は多数ありました。
西多摩の平井川と日原では道路が崩壊して集落が孤立するということもありました。日原についてはいまだに車が行けない状態です。応急復旧は終わりましたが、出水期までには本復旧を完了させようと頑張っているところです。
— 表流水を一手に引き受けている下水道局の対策はいかがですか。
神山 近年はいわゆるゲリラ豪雨が多く、短時間にたくさん降る雨の被害が大きかったのですが、今回はそういう雨による被害ではなく、多摩川からの逆流を防ぐために設置した樋門を閉めたことによる内水氾濫が大きな問題になりました。河川も含めさまざまな要因により1500軒程度が浸水してしまいましたが、この地域を除けば区部についてはほとんど浸水は発生していません。
— 今回はマンホールの蓋が飛ぶようなことはなかったのですか。
神山 区部で2か所、多摩で1か所ありましたが、昔ほどはなくなりました。以前は急に雨が降って下水道管内の圧力が上昇し、圧力が開放できずに蓋が飛ぶという事象が多かったのですが、今は圧力開放蓋といって空気が抜ける蓋がかなり増えています。蓋が飛ぶような場所は経験でわかってきましたので、計画的に対策を進めた結果、相当減っています。
— これまでに積み重ねてきた治水対策が、今回あれだけの豪雨でありながらもしっかり機能したといえそうですね。
地下神殿が果たした役割と高規格堤防事業の意義
—都内にある、いわゆる神殿といわれる貯水施設について教えていただけますか。
佐藤 地下神殿と呼ばれる施設は、埼玉県春日部市にある、首都圏外郭放水路という地下河川です。東京都も地下河川を持っていますが、用地買収面積が少なくて済むという点では有効な施設整備です。一方で、事業費はどうしても高くなりますので、どこでもできるわけではありませんが、首都圏のように人口が稠密なところでは、こういう治水はやらざるを得ないと思っています。
—巨大な構造物なので驚かされますが、今後も整備が進んでいくということですか。
佐藤 そうですね。荒川については先ほど第1調節池の話が出ましたが、第2、第3の調節池の整備を今後12年で終える計画です。それができると荒川については治水安全度がかなり高まるだろうと思っています。やはり破堤すると東京に大きな影響が出るのが荒川と利根川ですので、荒川と利根川をどう処理していくかは大きなテーマだと思います。
—建設局も地下の調節池をお持ちですが、その辺りをご紹介いただけますか。
奥山 まず、河川そのもの、いわゆる河道の改修を、昭和30年代から30㎜改修、50㎜改修と何回かやり、プラス調節池と分水路を組み合わせながらやってきたことが大きいと思います。
その上で、神田川の下にある地下調節池をはじめとして、調節池が現在28か所あるのですが、今回の台風ではそのうち21か所で取水をしました。環状七号線地下調節池では、量で言うと容量の9割ぐらいの貯留で、これによって下流の神田川の水位を最大で1・5m低下させる効果がありました。地下調節池がなかったら、護岸より30㎝ぐらい上まで水位が上がり、あふれるところでした。
—下水道局の対応を教えていただけますか。
神山 下水道の場合も河川と同じように貯留施設があるのですが、23区全域の5万6000haが対象となりますので、河川より規模の小さいものを数多く造る必要があります。
現在区部には、雨水が集まりやすいくぼ地や河川周辺の低地などに56か所、合計容量60万m³の貯留施設がありますが、この施設が今回は6割の貯留量となり、8か所が満水になりました。先ほど、神田川の地下調節池の話がありましたが、その近くにある下水道局で一番貯留量が大きい和田弥生幹線という15万m³の貯留施設が、稼働以来初めて満水になりました。
河川の環状七号線地下調節池と下水道の和田弥生幹線の2つの役割によって内水氾濫、外水氾濫が発生しなくなっていると思います。
—治水対策の一つとして話題になった高規格堤防事業についてご紹介いただけますでしょうか。
佐藤 江東デルタ地帯のようなゼロメートル地帯に、高台があるということは逃げ場所があるということで、非常に意味があると思います。カスリーン台風の時も、総武線の線路の上をみんな歩いて千葉のほうに避難したという記録があります。堤防の機能を強化するということもありますが、一方で安全な避難地を造るという意味においても、時間はかかるかもしれませんが、高規格堤防の事業はしっかり進めていくべきだと考えています。
—都もそれなりにコミットされていると思いますが、いかがでしょう。
奥山 隅田川など既にまちづくりと併せてスーパー堤防化されているところもありますので、これからもまちづくりの機会をとらえてやっていきたいと思います。
神山 下水道からの雨水は最終的に川に流れるので、河川の整備が進めば下水道の浸水対策もさらに推進できますから、ぜひ整備推進をお願いいたします。
強靭化の現在とさらなる防災のための施策
—現在取り組んでいる施策も含め、今後の計画をぜひご紹介いただければと思います。
佐藤 今回決壊が生じた3水系と多摩川について、緊急治水対策プロジェクトを1月末に発表しました。多摩川だけ川の特徴が違うので、対策の処方箋は異なりますが、関東の川は低平な沖積平野を流れる河川ということもあり、水が流れにくく、貯まりやすいという特性があります。特に大きな川と支流がぶつかるところはどうしても水が貯まりやすく、今回決壊しているところも基本的には合流点の辺りです。
ですので、今後は川だけで処理するのではなく、合流点のところに大きな遊水地を整備し、本川にも支川にも利く池を作ろうと計画しています。東京都ではないのですが、プロジェクト全体で調整中のものも含め8か所ぐらいは新規に遊水地を造る予定です。
イメージ的には多重防御治水という概念です。まず川でしっかり洪水を処理し、次に計画遊水地で川からあふれる水をいったんそこで貯める。そして、その外側、沖積平野の低いところでは、大きな洪水が来てもあまり被害が出ないよう住まい方を工夫してもらう。そのためには、場合によっては集団移転みたいなことをやる地区も出てくると思いますが、川だけでなく外側も含めて治水対策をやっていくことが大切だと考えています。
—都は中小河川が中心になると思いますが、今後の対策はいかがでしょう。
奥山 これまで時間50㎜の降雨に対応する対策でしたが、区部は75㎜、多摩は65㎜とレベルアップしました。雨の降り方は区部と多摩で違うのでレベルは一緒です。
レベルアップ部分の中心になるのが調節池ですが、現在の256万m³プラス560万m³分を増設する計画があります。110万m³分についてはすでに整備を行っており、2025年度までに整備を終える予定です。さらに次のステージとして、プラス150万m³を2030年度までに事業化する計画です。
また、考えられる最大の雨を想定して浸水予想区域図の改定作業をやっていて、2020年度中には全部完成する予定です。それを区市町村が作るハザードマップに使ってもらおうと考えています。
—下水道局はいかがですか。
神山 浸水予想区域図は建設局と下水道局が連携し、内水と外水を一体解析して作っていますが、ただ、多摩地域では下水の雨水幹線が河川の役割も担っているエリアが2か所ありますので、それを入れて都内全16か所の浸水予想区域図ができあがります。
ハードの計画としては、下水道は23区を面的に整備しなければなりませんので、地区を重点化して優先度をつけ、54地区で対策を実施しています。現在未完成地区が32地区残っていますので、それが一日も早く完成するよう事業を進めていきます。
また、渋谷駅東口駅前広場の地下に民間との協働で貯留施設を造り、下水道局がそれに集水する管を敷設し、これら施設全体を下水道局が管理するというスキームで事業を進めていますが、それが令和2年度の雨季までに一部稼働する予定です。
それから次のステップとしては、昨今雨の降り方が変わってきていますので、レベルアップした時間75㎜の対策地区をもう少し拡大しないといけないのではないかということで、今23区の浸水に対する弱点を面的に解析しているところです。その結果が出れば、重点化する地区を追加していく考えです。
—まだまだお話しいただきたいことはありますが、またの機会に。本日はありがとうございました。