第70回 南イタリアの赤いオレンジ “アランチャ・ロッサ”
昨今、日本国内でもその生産量が増えてきた、赤い果肉のブラッド・オレンジ。アランチャ・ロッサは、南イタリア、シチリア島で古くから生産されてきました。
シチリア島での柑橘類の歴史は、はるか遠い時代にまでさかのぼります。1997年世界遺産にも登録された、エンナ地域に位置するアルメリーナ広場(Piazza Armerina)は、ローマ帝国時代後期にすでにシチリアに存在していたレモンが、モザイク画に描かれていることでも知られます。
シチリア島の東部にあるヨーロッパ最大の活火山であるエトナ山周辺の地域は、土壌が非常に肥沃で、温暖な気候に恵まれた、まさに絶好のアランチャ・ロッサの生産地です。時に最大12メートルにまで達するその木々は、春になると真っ白な花を咲かせ、辺りに華やかな強い香りを漂わすも、その可憐な姿から純粋さの象徴とされ、この地域では結婚式の装飾に用いられるのが伝統です。そして、秋から冬にかけてはアランチャ・ロッサがたわわに実ります。
7世紀にアラブ人によって、ビター・オレンジがシチリアの地に伝わると、16世紀までは、この橙色をしたオレンジのみが栽培され、もっぱら庭園などのオーナメントとして観賞用に栽培されてきました。アランチャ・ロッサは、その後ジェノバの宣教師によって、フィリピンからシチリアに持ち込まれたと言われています。イエズス会士でグレゴリアン大学の教授でもあり、教皇の庭園の顧問を務めていた、ジョヴァンニ・バティスタ・フェラーリによって、17世期に書かれた柑橘類の栽培に関する植物図譜作品「Hesperides」がアランチャ・ロッサの最も古い文献として残っています。
EU(欧州連合)において、地理的環境などに由来する優れた特質を持った農産物の呼称のひとつ「IGP」(保護指定地域表示、または地理的表示保護)にも指定されている、シチリアのアランチャ・ロッサ。次号では、その美味しさの特徴をさらに、掘り下げていきたいと思います。