第68回 さまざまな名称を持つ野菜トピナンブール
ギリシャ語で太陽(helios)と花(anthos)を意味する学名を持つ菊芋。川や小川に沿った小道などに自生し、最大3mの高さにまで育ちます。夏の終わりから秋にかけて咲く鮮やかな黄色の花は、観賞用として親しまれていた時代もありました。ヒマワリの近縁種であり、常に頭を太陽に向ける屈光性が特徴です。初霜の下りる頃、葉や枝が枯れはじめ、地中にできるジャガイモのような塊。それこそが、食用として用いられる菊芋です。
イタリア語やフランス語でトピナンブールと呼ばれる菊芋は、南米やブラジルのアマゾン河口で、菊芋の栽培をしていたトゥピ系先住民族トゥピナンバ族の名前(Tupinamba)が由来しているという説があります。
また、17世期初頭、米マサチューセッツ州でアメリカ先住民族が栽培していた菊芋を食べたフランス人探検家が、アーティチョーク(地中海沿岸が原産の朝鮮アザミの若いつぼみ)に似たその風味に故郷を懐かしみ、自国へ持ち帰ったのがヨーロッパ各国へ伝わったきっかけとも言われています。
それらの説もあり、15世紀から先住民族によって栽培されてきた歴史がありながらも、その原産地が北米なのかブラジルなのかは、厳密には特定されていないそうです。
欧米など多くの国では「エルサレム・アーティチョーク」とも呼ばれる菊芋。その起源とはまったく関係のないイスラエルの都市が名前に付いた背景には、古くは花の容姿から「ヒマワリのアーティチョーク」と呼ばれていたイタリアでの通称がありました。イタリア語でヒマワリを意味するジラソーレ(Girasole)が、エルサレムの意のジェルサレンメ(Gerusalemme)と聞き間違えられ、それがそのまま世界中に広まっていってしまったといいますから、なんとも驚きです。
次回はイタリア人のトピナンブールの食べ方など。菊芋の話は続きます。