陸上自衛隊 第一施設大隊 本部管理中隊
交通小隊長 3等陸尉 江口 仁
文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。
今年9月の台風15号、10月の台風19号により、東京を含む関東および東北地方は甚大な被害を受けた。特に千葉県は倒木による停電の被害が大きく、朝霞駐屯地に設置されている第一施設大隊は、その除去作業に尽力した。今号は、そこで活動した一人、江口仁交通小隊長に話を聞いた。
大型土木建設機材の準備、選択、操作を行う
関東1都6県の防衛、警備、災害派遣、国民保護を担当する陸上自衛隊第一師団唯一の施設科部隊である第一施設大隊。ブルドーザーや油圧ショベル、グレーダー、クレーンなど、大型土木建設機材を多数装備し、現地での障害構成や処理、陣地の構築、渡河(河川に橋をかける)などを行う、師団の前線を支援する部隊である。そのため、装備品の整備等も行うのも任務に含まれる。
今回取材した江口仁小隊長が率いる交通小隊は、装備する土木建設機材を実際に操作し、整備管理を行う、装備品に最も近い部隊のひとつだ。有事の際はもちろん、災害派遣の要請があった際、いかに早く対応できるかが重要だという。そのため、操作技術の訓練を重ね、管理整備を徹底し、いざという時に的確な機材を提供できるよう準備している。
現在、小隊全体の指揮をとる江口小隊長は、出動の際にどのような機材を搬出するかを判断する「現地の見積もり」を行うのが主な仕事だ。
「現場の情報を把握した上で、どんな機材が求められるかを事前に判断し、迅速に出動できるように準備するのが私の仕事です。現場に行ってからの判断では遅い。そのため、現地の状況を“見積もれる力”が必要であり、私自身、過去の経験を総動員しながら、的確な機材を選べるよう努めています」
「見積もり力」と「現場力」で台風15号の倒木を除去
江口小隊長の「見積もる力」が現場で発揮されたのが、今年9月に起こった台風15号による倒木除去作業である。
台風が上陸した9月5日、交通小隊は拠点を置く朝霞ではなく、静岡県にある富士演習場におり、その翌日、千葉県より災害派遣要請が出て、直接木更津市に向かった。
「倒木除去には油圧ショベルが必要だと判断しました。実際にそれは間違っていませんでしたが、想定より作業場所が狭く、倒木に電線が絡んで、民家を傷つけてしまう可能性がありました。そのため、ショベルで少しずつ動かしながら人力で調整するという、慎重な作業が続きました」
約半日かけて作業を終え、次に向かったのは富津市。樹齢300年の巨木が倒れたが、電線が受け止める形になり、かろうじて民家にまで到達していなかった。だが、電線が絡む二次被害の可能性は高く、大型機材で一気に作業するのは難しかったという。
「そんな状況でしたが、我々が現場に入る前から、地元の方々が自主的に細かい枝などを除去しており、また、電力会社の方も迅速に現場に駆けつけ、電線除去の対応をしていました。そのおかげで、我々の作業はスムーズに進みました。地元の方との連携の重要性を実感しました」
こうして各地で作業を進め、江口小隊長のチームは約1週間千葉で活動を行った後、他のチームへと作業を引き継いだという。
自分の仕事にプライドを持ちかつ楽しく仕事をする
江口小隊長は、2013年の伊豆大島の土砂災害時の災害派遣に参加している。そこでは地元の人々との連携はもちろん、彼らに力づけられていることにも気づいたという。
「伊豆大島では人命救助にも携わりました。救助できた方から感謝された時の喜びは忘れることができません。また、今回の千葉でも、活動のお礼として差し入れをいただいたりもしました。立場上受け取ることはできませんでしたが、とても嬉しかったです」
見積もる力や機材の操作技術も重要だが、実際の現場でのコミュニケーション能力は、同じぐらい重要だと江口小隊長は語る。
「我々がどんなに懸命に情報収集しても、地元の方々の情報力にはかないません。それらの情報は、作業を進める上で非常に役立ちますから、いかに自然体で、気持ちよくコミュニケーションしてもらえるかが大切です。今回の千葉の活動でもその重要性を痛感しました」
この言葉通り、江口小隊長は取材中常に自然体で、私も気持ちよく会話することができた。それは部下に接する時も同様で、上下関係が明確な自衛隊だからこそ、積極的に話しかけ、心を開いてもらえるよう意識しているという。
「部下たちには、自分の仕事にプライドを持って、かつ、楽しく仕事をしてほしいです。この仕事は地味で忍耐が求められることも多いですが、だからこそ楽しく、積極的に関われる仕事だと思ってもらいたい。その環境作りが、今の私の仕事で一番重要だと思っています」