第66回 東洋のリンゴの別名を持つイタリアの冬の果物
秋からの冬の時期、イタリア人の好きな果物のひとつに柿があります。その豊富なビタミンCによって、体の免疫力を高め、典型的な季節風邪などが予防できると、トロトロに熟した柿を食べるイタリア人の姿をよく見かけます。
奈良時代(8世紀)に中国から日本に伝わった柿。その学名Diospyrosは、ギリシャ語で神様の穀物(食べ物)を意味し、1789年に日本から装飾・観葉植物として、ヨーロッパに伝わった背景があり、イタリア語でも、CachiまたはKakiの綴りでカキと呼ばれます。
フランス語などと同様に、男性、女性名詞と文法上の性が存在し、その性と単数複数で名詞の語尾変化が起こるイタリア語。多くの男性名詞の複数形がiで終わることから、kakiは複数形で、ひとつの柿をkako(カコ)なんて呼ぶ人もいたりします(本来、外来語は単・複数での語尾変化はしない)。
中国、韓国、日本といったアジア諸国に続き、イタリアの柿の生産量は世界第5位。ヨーロッパ諸国随一の生産量を誇り、主に南イタリアのシチリア島やサレント地方などでは、その地方固有の品種も多く存在します。メディチ家によって造られ、後のイタリア式庭園の基礎となった、フィレンツェのピッティ宮殿の後ろ側に広がるボーボリ庭園にも、19世紀から柿の木が植えられています。
そんなイタリアのいくつかの地域には、農夫たちが柿を用いて、その年の冬の天候を占うという面白い伝統があります。まず、占いたい地域で収穫した柿の実を用意し、その柿を縦にカットします。カットされた種の断面をよく見てみると、胚や子葉の部分が、ナイフやフォーク、スプーンといったカトラリーの形状になって現れるのだそうです。ナイフの形状の場合は、身を切るような冷たい強風の寒冬が予想され、フォークは雪の少ない温和な冬。スプーンが出ると、その冬の大雪を意味するのだとか。どこまで信憑性があるかは別として、ぜひイタリア式に柿を使って、その冬の長期予報を占ってみたいものです。