第64回 南イタリアの人々に愛されるサボテンの実“フィーキ・ディンディア”
シチリア島を中心に、南イタリアのカラブリア州、プーリア州、サルデーニャ島などに自生、あるいは栽培されているフィーキ・ディンディアは、ウチワサボテンのトゲのある葉の端で成長する実です。鮮やかな赤紫色のマゼンタや、オレンジ、グリーン、ホワイト、イエロー、レッドとその果肉は実にカラーバリエーション豊か。酸味はほとんど無く、穏やかな香りと甘みが特徴の、南イタリアではとてもポピュラーな夏から秋が旬の果物です。
イタリア語で、インドのイチジクを意味するその名前。中米が原産なのに、何故インド?と思っていたら、1492年にコロンブスが西インド諸島のサンサルバドル島に上陸した際、インドの地に辿り着いたと思い込んだという有名なエピソードに遡るのだそう。その後、コロンブスらスペイン人によってヨーロッパに持ち込まれ各国へ広まっていったウチワサボテンは、英語でもindian figインドのイチジクと呼ばれています(別名prickly pearトゲのある梨)。
夏から秋にかけて色付く楕円形の実は、カルシウムやリン、豊富なミネラルと抗酸化作用を持ち、食用のほか代替医療などにも用いられてきました。ビタミンC が豊富なことから、壊血病の治療に用いられてきた歴史もあります。カラフルな果肉の色は、成分の濃度や味の違いによるもので、地元の人々は、それらを識別し自分好みの色を選びます。スルファリーナと呼ばれ最も収穫量が多くポピュラーな黄色の実は、柔らかくジューシーで甘さは控えめ。赤い果肉のサングイーニは、とにかく強い甘さが特徴。ムスカレッダと呼ばれる白い実は、ぱっと見、未成熟の実との判別が難しいのですが、まるでお菓子のような甘さと食感の良さが特徴。収穫量が少ない貴重品です。
真夏の果物かと思っていたら、シーズン最初の果実の収穫後、2度目の開花で結実したバスタルドーニと呼ばれる初秋に熟れる果実こそ、地元の人々のみが知る最も美味しいものなのだそう。
次回は、トゲに覆われたサボテンならではのこの果物の過酷な収穫方法についてお話します。