第63回 古くは肉の保存法であった生ソーセージ

  • 記事:加藤 麗

古くは多くの家庭で、自家消費用に豚を飼育し、手作りされていたサルシッチャ。現在は精肉店などで販売されている

 「サルシッチャ」と呼ばれるイタリアの生ソーセージをご存知でしょうか。ソーセージと言うと既に加熱されたものを思い浮かべる方も多いかと思います。肉のさまざまな部位を混ぜ合わせ細かくペースト状に挽き、加熱処理したものが多いオーソドックスなソーセージとは異なり(イタリアでは加熱ソーセージはヴューステルと呼ばれます)、肉の良質な部位のみを用いることが多いのが、サルシッチャの特徴の一つです。

 イタリアでのその歴史は、ローマ帝国にまで遡ります。古くから牛肉や馬肉、猪肉や鹿肉をはじめとするジビエなど、さまざまな肉を用いた良質な腸詰めが製造されていましたが、現代では豚肉をベースにしたものが、最もポピュラーです。

 豚の肩肉など、赤身の柔らかな部位の肉を刻み、脂肪分の多い部位と、塩・胡椒のほか、セージやクミン、ナツメグ、唐辛子などの香辛料や白ワインを加え腸詰めにします。また、レバーや他の内臓の部位、はたまた豆類や米、北イタリアではザワークラウトを肉と配合した珍しいサルシッチャも存在します。肉の種類や部位、その配合は地域によって異なるので、サルシッチャのバリエーションは豊富です。

 塩味を意味する「サルサス」と細かく刻んだ肉「インシシア」に由来すると言われるサルシッチャは、生肉に塩を添加し、腸詰めにすることで、酸素に触れずに肉を長期保存することや輸送を可能にした、先人の知恵が生みだした食べ物です。

 そのまま焼いたり、煮て食べることもありますが、多くの場合は皮を剥ぎ取り、中身の肉のみを、ほぐして料理に用います。

 私自身、初めてその光景を目にした際には、せっかく腸詰めされているものを、ほぐしてしまって「もったいない」と思ったものですが、あくまでもサルシッチャは熟成され美味しくなった肉という解釈、腸詰めの皮はその保存容器に過ぎないという訳です。

 サルシッチャはイタリア人の庶民の生活になじんだ食材であり、ほぐした肉は、パスタソースをはじめ、ひき肉料理に混ぜたりと幅広く使用されます。

加藤 麗 かとう・うらら(旧姓 大庭)

加藤麗東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F.(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

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