次世代の水素エネルギーの開発
東芝エネルギーシステムズ株式会社
宇宙で最も多く存在する元素で、地球上では海水などの水(H2O)のように化合物として存在している水素(H)。そんな無限にあるといえる水素からエネルギーを取り出して、電源や熱源として利用する技術が注目されている。自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」や大規模水素エネルギーシステム構築など同社の水素エネルギーに関する取り組みについて紹介する。
水さえあれば “地産地消” で電力とお湯を作り出すことができる自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」。2015年7月、2018年3月の二度にわたり、本紙で紹介してきたが、その後はどうなっているのだろう。
「だいぶ数が増え、11カ所になりました」
開口一番、こう話すのは、東芝エネルギーシステムズ株式会社水素エネルギー事業統括部の佐藤純一参事。
「まずは宮城県の楽天生命パーク宮城です。球場の隣にいわゆるBCP(事業継続計画)向けとして設置し、常時は地域のFM局や楽天スタジアムのPR用サイネージの電源として使用、非常時にはそこに避難されてくる方たちのためのモバイル用電源などに使っていただきます。それから今年6月には、アサヒビール茨城工場で営業運転を開始し、H2One™は工場見学施設の照明や試飲用ビールサーバーの電力として活用していただいています」
今年3月、経済産業省が水素基本戦略及び第5次エネルギー基本計画で掲げた目標を確実にするため、新たな「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定したこともあり、地方自治体をはじめさまざまな企業の“水素”に対する意識・興味はかなり高まっていると実感しているという。
福島県浪江町で始まる大規模実証実験
昨年8月には、水素の導入に向け積極的な取り組みを進めている福井県敦賀市と水素サプライチェーン構築に関する基本協定を締結し、 今年の秋には同社製の「H2Oneマルチステーション™」が設置される予定。これは、再生可能エネルギーにより建物に電気や熱を、電気自動車に電力を供給できる「H2One™」と、FCV(燃料電池車)8台分の水素を製造でき、最速3分で満充填ができる「H2One ST Unit™」を組み合わせた水素エネルギー供給システムだ。
また、高圧ガス保安法上の「第二種製造者」に分類される製造所なので、保安係員が常駐する必要がなく、災害等の非常時に停電しても避難所において300人に3日分の電力と熱を供給することができるという。
「供給する側としては、これからは大規模で水素を作ることが必要になってくると考え、その最初の大規模実証として、福島県浪江町で来年7月『福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)』の稼働を目指しています。これは再生可能エネルギーを利用した1万kWの水素製造装置を備えた水素エネルギーシステムで、このシステムで製造された水素は、燃料電池による発電用途、燃料電池車・燃料電池バスなどのモビリティ用途、工場における燃料などに使用される予定です」
ここで1日に製造する水素量は約150世帯1ヶ月分の電力で、FCVの燃料に換算すると約560台に相当。世界最大規模の「Power-to-Gas(水素を用いたエネルギー貯蔵・利用)システム」のプラントといわれている。
電力の大量かつ長期貯蔵
長距離輸送が可能
同社の水素事業の基本は、再生可能エネルギーと水素を活用してCO2フリーのエネルギーを安定的に供給していくことにある。
「再生可能エネルギーはどうしても風任せ、太陽任せのところがありますが、水素は電力を大量かつ長期に貯蔵することができ、長距離輸送が可能です。また、燃料電池によるコジェネレーションや、燃料電池自動車・燃料電池バス、トラック、船といった移動体など、さまざまな用途で利用可能です。将来的には、再生可能エネルギー由来の水素を活用し、製造から利用に至るまで一貫してCO2フリーな水素供給システムの確立を目指しています」
一方で課題となるのがコストと安全管理である。コストを下げるためには、まずは水素を普及させること。そのためにはインフラを変える必要があるので、両輪で進めていくことになる。安全管理に関しては、ガソリンや天然ガス、プロパンガスと同様、水素についてもその特性に応じて管理すれば安全だという。
「実際、H2One™を設置している楽天生命パーク宮城は、スタジアム入り口近くにある交番の横で待合せ場所にできるようなところですし、アサヒビール茨城工場は見学棟の入り口前に設置しているので、安全に関してはそれだけの配慮をしています」
水素エネルギーの取り組みが評価
ジュール・ヴェルヌ賞を授与
昨年6月、国際水素エネルギー協会より「ジュール・ヴェルヌ賞」を授与された。同社の長年にわたる燃料電池開発や自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」等の水素エネルギーの取り組みが評価されたものだ。
「水素を『つくる』『ためる』『つかう』それぞれのシーンで製品・技術開発に力を注いできました。これからも持続的なエネルギー社会の構築のため、水素社会インフラシステムの提供を目指して技術革新を進め、クリーンな水素エネルギーの利活用とエネルギーマネジメントでエネルギー課題の解決を目指していきたいと思います」