第62回 大理石がカギを握るイタリアの絶品ラルド③

  • 記事:加藤 麗

ラルドは、向こう側が透けて見えそうなくらい薄く、薄くスライスして食べるのがおすすめ

 今月もイタリアトスカーナ州の特産品、ハーブや香辛料と塩漬けにし、大理石の箱の中で長期熟成した豚の背脂部分「ラルド・ディ・コロンナータ」の話題の続きです。

 熟成後のラルドは厚み約3㎝。表面には若干灰色がかった海塩と香草、香辛料が残りますが、脂肪部分はまさにカッラーラビアンコの大理石を思わせる均一でムラのない白さ。淡い薔薇色が差し色に入ります。

 食べる際は、上部の塩を取り、下部に残った豚の皮(コテンナ)を切り外しますが、別名リングア(イタリア語で舌の意味)とも呼ばれる豚の皮は、一度では到底食べきれない塊のラルドの保存に活用されます。表面に残っていた塩とリングアで表面を再び覆い、湿った布で全体を包み冷暗所で保存することで、表面の乾燥や酸化、劣化を防ぎます。リングアと塩は、最終的にはトスカーナ風の豆や野菜のスープの調味に用いられます。

 薄くスライスしたラルドは、塩漬け熟成されていたにもかかわらず、ほんのり甘いデリケートな味わいが特徴です。クセのない脂身に、地元の香り高いハーブやシナモンなどの独特な甘い香りが広がります。この地の伝統では、ラルドと刻んだ少量のトマトとローズマリーを、厚めにスライスしてこんがりと黄金色に焼いた、熱々のバゲットに載せていただきます。その美味しさに、イタリア人であれば必ず、親指、人差し指、中指の指先を口に当ててキスをし、空に向けて指を開く、そんなジェスチャーをするはずです。「美味しい!」を意味するこの仕草。日本では頬っぺたに人差し指を当てて、「ボーノ!」と言うジェスチャーが知られていますが、それは赤ちゃんや幼児が使うもの。大人は前述の指先にキスをする仕草が一般的です。日頃からジェスチャーを多用することで知られるイタリアの人々。身振り手振りを用いて、時には言葉では表現しきれない感情までを表現します。機会がありましたら、この絶品ラルドを食べて、イタリア式のジェスチャーを試してみてはいかがでしょうか。

加藤 麗 かとう・うらら(旧姓 大庭)

加藤麗東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F.(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

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