環境局長 吉村 憲彦氏
東京都の各局が行っている事業を局長自らが紹介する「局長に聞く」。今回は環境局長の吉村憲彦氏。東京において環境問題は避けては通れない重要課題であり、企業だけでなく都民一人ひとりの協力が不可欠だ。多岐にわたる取り組みについて聞いた。
環境施策の風を起こす
「ゼロエミッション東京」の実現へ
—局長に就任して3か月が経過しました。
環境局が発足した2000年当時、21世紀は「環境の世紀」になるとも言われていました。縁あって環境行政に長く携わってきましたが、持続可能な社会の実現という目標は世界の潮流となり、環境対策の重要性は年々高まり続けていると実感しています。
都民が健康で安全かつ快適な生活を営むことができる良好な環境を確保するため、局一丸となって取り組んでいきたいと思います。
—「ゼロエミッション東京」の実現が注目されます。
5月21日のU20メイヤーズサミットでは、都は気温上昇を1・5℃に抑えることを追求し、2050年までにCO₂排出量実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現という、国に先んじる目標を世界に表明しました。
命にかかわる暑さや、経験したことのない大雨など、気候変動対策の緊急性が高まっています。
都はこれまでもディーゼル車規制や世界初の都市型キャップアンドトレード制度の導入など、環境施策をリードしてきました。
今後、「ゼロエミッション東京戦略」を策定し、大消費地・東京だからこそできる、持続可能な社会・脱炭素社会に向けた具体的な道筋を発信していきたいと考えています。
—具体的な取り組みは。
CO₂の排出量を削減する緩和策と、気候変動により受ける影響を軽減する適応策の総合的展開が必要です。
そのため、都施策の全般にわたり、気候変動への適応に取り組むための気候変動適応計画を策定します。
また、CO₂を実質ゼロとするためには、あらゆる分野の取り組みを進化させる必要があります。
省エネ・再エネに関しては、家庭における省エネ・再エネ化を一層進めるため、性能の高い家電等への買い替えを促進する「家庭のゼロエミッション行動推進事業」や、住宅所有者にとって初期費用ゼロで住宅用太陽光発電設備が設置できる事業などを新たに実施します。
一方、3R(リデュース、リユース、リサイクル)による資源循環施策や、これまで大気環境改善に大きな成果をあげてきた自動車対策は、気候変動対策の観点も踏まえて取り組みを強化します。
具体的には、CO₂の排出量を削減するため、「海ごみ問題」の原因にもなっているワンウェイプラスチックの利用削減を進めた上で、家庭やオフィスビルから排出される廃プラスチックの焼却量を削減していきます。
また、走行時にCO₂を排出しないZEV(ゼロエミッションビークル:電気自動車、プラグインハイブリット自動車、燃料電池自動車)の普及・拡大に向け、電気自動車等の補助対象者を中小企業に加え、個人や大企業にも拡大するとともに、充電設備も更なる普及を図ります。
競技会場周辺の暑さ対策を検証
—取り組みを進める上での課題は。
環境対策の推進には多くの都民や事業者の共感と協力が不可欠です。身近で起きている気候変動の影響による危機的な状況を分かりやすく示し、リーフレットやSNS、環境学習の場などあらゆる機会を捉えて、気候変動のリスクを丁寧に伝えていくことで、省エネ行動などへの理解を促していきます。
また、一人ひとりの行動が環境全体に大きな影響をもたらすことから、誰もが参加できる「チームもったいない」プロジェクトを昨年度創設しました。
参加者とともに、さまざまな場面で「もったいない」の意識を伝え、レジ袋の削減や省エネなど、都民や事業者の行動変容を促し、ムーブメントを醸成していきたいと思っています。
—2020年のオリンピック・パラリンピック大会では、暑さ対策が重要ですね。
夏の東京大会では、厳しい暑さから都民や観客、観光客を守るため、暑さ対策は極めて重要な課題です。
これまで、観光客等が多く集まる注目度の高い地域において、ミスト設備などによりクールエリアを創出するなど、暑さ対策の事業を進めてきました。
大会準備の総仕上げとなる今年度は、テストイベントによる本番さながらの実施体制で、主に競技会場周辺の暑さ対策を検証する予定です。ビーチバレーやボートなどの競技において、ウチワや紙帽子などの配布と、仮設のテントやミストなどの設置を行い、ハード・ソフトの両面から準備を進めています。
そして、この結果を踏まえ、来年夏の暑さ対策を実施し、得られたノウハウや知見は、レガシーとして活用していきたいですね。
—最後に今後の意気込みを。
環境行政は、温暖化やエネルギー対策、資源循環の推進、自然環境の保全、快適な大気・水質環境の確保など、幅広で多様化しています。
社会動向である「風」を察知し、時宜を逃さず「風」に乗り、必要な施策を効率的・効果的に推進する。そして時に都が先導して新たな「風」ムーブメントを起こすことで、環境先進都市東京の実現を目指します。