第61回 大理石がカギを握るイタリアの絶品ラルド②

  • 記事:加藤 麗

伝統的なその熟成方法は、現代の細菌学的にも理に適った方法であり、古くは5年以上の熟成保存もなされていた

 先月に続きトスカーナ州に伝わる極上ラルド(塩漬け熟成した豚の背脂部分)“ラルド・ディ・コロンナータ”の話題です。一般的に、ラルドの話になると「豚の脂肪の塊をスライスして食べるだなんて、コレステロール値も高そうだし」と、健康のことを考え敬遠する方も多いようです。確かに動物性の脂質は、血中コレステロール値を上げる原因となり得るようです。コロンナータ地域の大理石は、純度の高い炭酸カルシウムを含有し、高い不浸透性と特殊な通気性を兼ね備えた特性によって、大理石の熟成槽(コンカ)内部の酸度とアルカリ度のバランスを保つことができることから、豚の脂の持つ飽和脂肪酸を分解し、不飽和脂肪酸を増やすことが近年の研究によってわかりました。その結果、動物性脂質でありながらも、植物性脂質にほぼ近い状態へと変化したラルド・ディ・コロンナータは、減量中や、健康を気にする人々にも推奨される良質な脂質を持った食品と認識されています。

 海抜550mに位置し夏でも涼しく、年間を通して極めて湿度が高く、1日の寒暖差が大きいといった特殊な気候のコロンナータ地域で作られるラルドには、いくつか決まりがあります。まず特定の農場で飼育された豚を、食肉処理後72時間以内に冷蔵保存せず加工すること。後頭部から臀部までの背中を覆う脂肪の層(3㎝以上の厚みがあるもの)に、天然の海塩と挽きたての黒胡椒、新鮮なローズマリー、皮を剥いたにんにくをベースのハーブとして使用すること。そのほか、シナモン、スターアニス、コリアンダー、ナツメグ、クローブ、芳香性のハーブとしてフレッシュのセージ、オレガノを塗すことが認められています(凍結乾燥物質、天然および人工の香料、保存料、添加物の使用は禁止)。これらをなじませた背脂の部位を、大理石のコンカに幾層にも詰め、ラルドから排出された水分を含んだサラモイア(塩水)と海塩が、常にラルドの表面を覆っている状態で6~10カ月の長期熟成がなされます。

 次回はいよいよ、この貴重なラルドの食べ方を紹介します。

加藤 麗 かとううらら(旧姓 大庭)

加藤麗東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F.(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

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