労働委員会事務局長 松山 英幸 氏

  • 聞き手:平田 邦彦

 東京都の各局が行っている事業を局長自らが紹介する「局長に聞く」、今回は労働委員会事務局長の松山英幸氏。労使紛争の解決に取り組む専門的な組織であり、その取扱い審査件数は年間400件と全国の半数近くにも達する。労働委員会の特徴や人材育成などの課題、今後増加が見込まれる個別紛争事件についてお話を伺った。

全国の労働委員会制度をけん引

今求められる監査の役割と課題

—4月に就任したばかりですがいかがですか。

 労働委員会は、労働組合と使用者との間で生じた労使紛争の解決にあたっていますが、その業務内容は都庁内ではあまり知られていないように思います。

 私も教育庁の課長だった時に、当局側の交渉担当者として教職員組合との交渉を経験していますが、労働委員会にこれほど多くの事件が係属しているとは知りませんでした。

 東京都労働委員会が取り扱う審査事件数は、年間400件前後で、全国の約半数の事件を取り扱っていることや、全国のリーディングケースとなるような命令を発しているなど、東京都労働委員会が全国の労働委員会制度を牽引していることが分かります。とてもやりがいのある仕事だと感じています。

—労働委員会について、さらに詳しくご説明を願えますか。

 労働委員会は、労働組合法と地方自治法に基づき、国と各都道府県に設置された合議制の行政委員会であり、労働組合と使用者との集団的労使紛争を専門に扱う唯一の機関です。

 公平な立場の第三者として労使間の紛争処理を行い、労働基本権の保護と労使関係の安定、正常化を図ることを目的としています。

 その機能としては、不当労働行為の審査等を行う判定的機能、あっせんにより紛争を解決に導く等の調整的機能があり、この判定的機能を持つことから準司法的機関とも言われています。裁判所のようなものとイメージしてもらえるとわかりやすいと思います。

—労働委員会の特徴は。

 労働委員会は、学識経験者から選ばれた公益委員、労働組合から推薦された労働者委員、使用者団体から推薦された使用者委員の三者で構成されており、東京都労働委員会では、各13名、計39名の委員が、その高い見識を生かし労使紛争の解決にあたっています。

 異なる立場の三者委員が、それぞれの立場に十分配慮し、協力し合って円満な労使関係の確立に力を尽くすことで、労使紛争の当事者にとっても、納得感の高い解決が図りやすいというメリットがあります。

 また、労働委員会の命令は裁判所の判決と異なり、労使関係の実情に合わせた救済方法が選択できるなどの裁量の余地があり、将来の労使関係を考えた適切な命令を出すことができます。

—とても専門的な業務だということがわかりました。紛争解決に向けて特に力を入れていることは。

 不当労働行為の審査においては、当事者双方がともに歩み寄ることができれば、和解により紛争を解決することができます。

 命令による解決と比べ、将来にわたり安定的な労使関係を築くという点で有効であり、東京都労働委員会では和解に力を入れています。

 和解に向けては、労使関係の実情に精通した労働者委員、使用者委員が特に重要な役割を果たしており、委員と職員が一体となって精力的に当事者に働きかけるなどの取組を進めています。

 この結果、申し立てられた事件の約7割が和解で解決しています。

計画的な人材育成が重要

—課題は何でしょうか。

 労働委員会には、その事務を整理するために事務局が置かれ、職員が配置されています。職員には委員を適切に補佐していくための、高い専門性と柔軟な調整力が求められます。

 委員が非常勤であることから、労働委員会がその機能を発揮していくための事務局職員の役割は非常に大きく、専門性の維持向上に向けた計画的な人材育成の取組が重要となっています。

 また、業務の重要性とは裏腹に、労働委員会の業務について一般の方の認知度は低いと考えられます。

 事件の処理にとどまらず、これまでの命令やあっせんの事例をわかりやすく経営者や労働組合に知らせていくことで、交渉の進展や紛争の未然防止につなげていくことも重要だと考えています。

—今後の労働委員会の役割は。

 本格的な人口減少社会が迫る中、将来にわたり東京の経済を発展させていくためには、安定的な労使関係の構築が必要不可欠です。 東京は全国に支店を有する大企業に関するものや、雇用形態の多様化や社会経済の動向を反映した、様々な形態の労働問題が先鋭的に現れてきます。

 さらに、外国人労働者問題、非正規労働者問題、ハラスメント問題など、今日的な労働問題に係る事件も増加しています。

 また、事実上の個別紛争事件である、企業の枠を超えて労働者を組織している、いわゆる合同労組の事件が依然として多い状況です。

 現在、行われている働き方改革により、このような傾向は今後も続いていくと思われます。

 このような中、労働委員会の機能を最大限発揮し、複雑困難化する労使紛争の迅速かつ的確な解決に取り組み、その使命を果たしていきたいと思っています。

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