第59回 イタリアの人々に愛される熟成米

  • 記事:加藤 麗

リゾット以外にも、お米のパイ包み焼きやアランチーニ(ライスコロッケ)などイタリアの米料理のバリエーションは豊か

 イタリアでは、熟成米が知られています。なかには7年間も熟成をした高級な長期熟成米もあります。もちろん、ただ単に月日が経過した古いお米ではなく、収穫後に空調、温度管理がなされたステンレス製のサイロ(貯蔵庫)などで、特別な方法を用いて熟成保存されたお米です。その熟成過程においては、もちろん古米臭と呼ばれるような不快な臭いはなく、澱粉やタンパク質、ビタミン類のみが変化し、熟成米の風味が際立っていくそうです。

 日本では、一般的に新しいお米、新米こそが美味しいお米のイメージがあります。新米は炊いた際に、米粒が柔らかく、もっちりした粘りが出やすいことから、和食における美味しい御飯のイメージとつながっているようです。逆に古いお米はというと、時間の経過とともに、米の持つ脂質が酸化(劣化)し、古米臭を発生するなどのネガティブなイメージがあります。

  しかし、多くのお寿司屋さんはシャリに使うお米は新米を避けると言われるように、時に収穫後時間の経過したお米の持つ特徴にこそ、価値がある場合もあります。

 お米は、時間の経過とともに米粒の外側や中心部の澱粉質が硬くなり、生米を水に浸した際の吸水率が低下します。しかし、加熱して温度が上がりはじめると、古い米ほど水分を吸収するという特徴があります。 イタリア料理のリゾットを作る際は、米を研いだり水に浸したりはしません。生米を鍋で炒め温度が上がったところで、熱々のブロード(野菜などのだし汁)を注いで加熱します。新米に比べ、加熱時の吸水率が高い米を用いるのは、ブロードの旨味をたっぷりと吸ってくれるからです。リゾットは、このブロードが味の決め手と言っても過言ではありません。そしてパスタ同様に、リゾットにおいても、アルデンテ(芯を残した若干歯ごたえのある状態)が好まれるイタリアでは、煮崩れしにくく、米粒の存在感の残りやすいお米こそが、いいお米というわけです。

加藤 麗 かとううらら(旧姓 大庭)

加藤麗東京都生まれ。2001年渡伊。I.C.I.F.(外国人の料理人のためのイタリア料理研修機関)にてディプロマ取得。イタリア北部、南部のミシュラン1つ星リストランテ、イタリア中部のミシュラン2つ星リストランテにて修業。05年帰国。06年より『イル・クッキアイオ イタリア料理教室』を主宰。イタリア伝統料理を中心に、イタリアらしい現地の味を忠実に再現した料理を提案し、好評を博している。

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