「無電極ランプ」の製造販売
帝人フロンティア株式会社
日本にある世界トップクラスの技術・技能—。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。 現在、世の中の照明の大半が「LED照明」になりつつある。その長所はさまざまだが、最大の特徴は、水銀灯や蛍光灯に比べ、長寿命であることだ。だが「LED照明」よりさらに寿命が長い照明が存在する。それが、「無電極ランプ」である。実は意外と身近で活躍している「無電極ランプ」について紹介する。
「無電極ランプ」とは、その名の通り、電極を持たない照明のことだ。
従来の照明の仕組みを簡単に説明すると、電極またはフィラメントに電気を通すことで電子が発生、それがガラス管内の水銀粒子とぶつかりあって、紫外線が発生する。その紫外線がガラス管内の蛍光体塗膜に衝突して、可視化、つまり発光するのである。
「無電極ランプ」はどうかと言うと、電極またはフィラメントの代わりに、フェライトコアとコイルを設置して交流高周波電流を流し、磁界を発生させる。すると、ガラス管内に電界が生まれ、電子を放出。その先は従来の照明と同様の仕組みだ(詳しくは図1参照)。
「LEDを含め従来の照明の寿命は、電子を放出するフィラメントや電極の寿命でした。しかし、『無電極ランプ』はそれらの寿命に左右されませんので、より寿命が長くなると言われています」
と、帝人フロンティアで「無電極ランプ」を担当する、東京繊維資材部建装資材課の津田宜さんは話す。
長寿命に加え演色性や照射の広さも特徴
「無電極ランプ」の寿命は約60000時間。1日に10時間点灯すると仮定すると、約16年5ヶ月も持つ計算になる。
寿命以外の長所もたくさんある。ひとつは、優れた「演色性」だ。演色性とは、色の見え方の指標のことで、自然光と比較して物を見た時に、色の見え方がより自然光が当たった時の見え方をする照明ランプを「演色性の高いランプ」と言う。自然光を「Ra100」として数値化されており、一般的な水銀灯が「Ra40」、一般的なLED照明が「Ra70」であるのに対し、「無電極ランプ」は「Ra80」以上である。
もうひとつは、照射角度の広さだ。特にLED照明のように直線的に照らす照明に比べ、照射角度が広いので、空間全体をムラなく明るくすることができる。同じ空間で照射した場合、陰影を見ればその差は明らかだ(写真1参照)。
目に優しく疲れにくく、環境負荷も少ない
「無電極ランプ」には、照明の光が人間の目に優しいという特徴もある。「グレア」と呼ばれる、瞳が嫌うまぶしさや「ギラツキ」が少なく、照明を直視した際の残像や眼への負担が少ないのだ。また、目への影響が懸念されている「ブルーライト」を出さないことも、この照明の特筆すべき点である。
さらに、水銀灯と比較すると使用する水銀量が少なく、CO2の排出量も低く抑えられ、環境負荷の少ないエコロジーな照明としても注目されている。
「長寿命であることが評価され、ランプ交換が大変な工場や体育館などに、多く導入していただいています。また、照射角度の広さや目に優しい点は、工場などでは作業の正確性や事故防止にもつながると、喜ばれています。水銀含有量については、2017年8月に『水銀に関する水俣条約』の発効、実施が決まりましたが、日本もこの条約に批准しています。『無電極ランプ』は、その条件をクリアする選択肢のひとつとして、大いに期待できると思います」(津田さん)
ちなみに同社製品は、総務省が定める電波法規制に基づく設置認定許可や、照明器具の安全性を証明する「PSE(電気用品安全法)」適合証明なども取得。規制や安全面への配慮も万全だ。
企業の労働環境改善や環境対策にもつながる
実は「無電極ランプ」の歴史は古く、その発光原理は1880年代には解明され、ヨーロッパの街灯などに活用されてきた。その後も長い間、外国の電機メーカーはもちろん、日本の企業が開発、販売していたが、新時代の長寿命照明として脚光を浴びたLED照明の急速な普及の影響もあり、現在は同社が数少ない国内の取り扱い企業となっている。
「『無電極ランプ』は小型化や棒状の加工が難しく、ガラス管は手作業でしか作れないため、手間もコストもかかります。その点では、小型化や加工がしやすく、量産にも適したLED照明の普及が進むのは納得できます。ただ、先に挙げた工場や体育館など、目に優しく、環境負荷が少なく、より長い寿命を求める場所では、『無電極ランプ』が適していると言えるでしょう。実際に導入していただいている工場からは、照明を変えたことで作業効率が上がったり、事故が減ったという声をいただいています。近頃は、労働環境の改善があらゆる企業に求められています。そうした面でも、『無電極ランプ』の導入を検討していただけると嬉しいです」(津田さん)
電極を使わない技術で、自然環境だけでなく、生活する人の環境も優しくできる照明。適材適所ならぬ適「光」適所を考える上で、覚えておきたい存在である。