第57回 バリエーション豊かなイタリアの玉ねぎ
紀元前、すでに古代エジプト王朝で栽培がされていたと言われる玉ねぎ。イタリアには異なるルートを辿り、さまざまな地域に多種多様な品種のチポッラ(玉ねぎ)が伝わりました。
イランを起源とする古代品種キオッジャは、アッシリア(現在のイラク北部)、バビロニア(現イラク南部)を経てエジプト、ギリシャと渡りイタリアに上陸した白玉ねぎの品種。イタリア北東部、ヴェネト州の郷土料理サオールには、味の決め手となるこのチポッラが欠かせません。この地の方言で“味”を意味するサオールは、揚げた魚や野菜を甘酸っぱい味付けで煮込み、たっぷりの玉ねぎに漬け込んだイタリア版南蛮漬けのような料理です。
南西部のカンパーニア州カゼルタで育つアリフェ種は、ローマ帝国において、鎮痛剤として用いられていた事でも知られます。北西部のリグーリア州のエジプト・リグーリア種は、その起源こそ定かでないものの、高さ1・2mにまで成長する事から別名「玉ねぎの木」。また成長すると自重で折れ曲り、地面に触れた部分から、新たな根を出し成長する事から「歩く玉ねぎ」などとも呼ばれます。
このようにイタリアには、北から南まで古くから多くの品種の玉ねぎが存在し、伝統的な代表品種だけでも25種類。イタリアに存在するその他すべての玉ねぎの品種を数えることは難しいと言われるほどです。
古くは、医薬品としても愛用されたチポッラ。肌の再生を助ける効果があると言われ、戦時中に負傷した兵士の傷の治療に用いられていました。切り傷や、治りにくい傷の再生のほか、殺菌効果があるので、虫刺されにも玉ねぎのエキスの湿布が効くのだそう。また、生の玉ねぎの香りは、頑固な咳を抑える効果があるという話も有名ですが、兎にも角にもどれも匂いが気になりそうで……。私は、料理で食べる専門です。