警視庁オリンピック・パラリンピック競技大会
 総合対策本部 警備総合対策担当管理官

  • 取材:種藤 潤

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。
 東京2020大会開催まで2年を切った。大会の安全安心な運営はもちろん、都市生活に支障を来さないために、警視庁は2014年より総合対策本部を設置した。今回はその警備総合対策部門を担当する管理官である冨田利雄氏に話を聞いた。

誰もが経験したことのない規模のオリンピック・パラリンピック大会の各種対策を一から作り上げるために、冨田管理官は2016年リオ大会を視察した。写真はメインスタジアムの様子(提供:警視庁)

組織委員会と同時に設置
2019ラグビー大会も担当

 警視庁オリンピック・パラリンピック競技大会総合対策本部(以下、総合対策本部)は、名称の通り、大会運営に関わる総合的な安全対策を行う専門部署だ。総合対策本部が横串を通す役割を担い、専門知識を有する各部の対策部門が中心となり、都内各地域を熟知する102の警察署と連携し、2020年大会に向けて実務的な各種対策を進めている。

 同部は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)の招致が決定した直後の2013年11月1日に前身となる準備室が立ち上がり、翌年1月24日の東京2020大会組織委員会発足と同日に、副総監を本部長とする直轄組織として設置。組織委員会への職員派遣も始まった。

 現在は本部長の下に副本部長にあたる参事官2名、実質的な運営を担う総合対策官および、各部に運営責任者となる理事官を置き、組織委員会への派遣も拡大している。

 ちなみに、ラグビーワールドカップ2019の総合対策も担っており、昨年から同大会の組織委員会への職員派遣も開始した。

過去大会では、開会式に向かう聖火ランナーに対する妨害事案もあり、リオ大会では厳重な警備態勢が敷かれていた(提供:警視庁)

独自の対策が求められる東京大会の3つの特徴

 冨田利雄管理官は、総合対策本部のなかの「警備総合対策」を担当。組織委員会やIOCによって示された運営の方向性に沿って総合調整を行い、選手や関係者、VIP等の輸送に加え、マラソン、自転車競技、聖火リレーなどの沿道の警備、都内に設置される25会場および主要施設を中心とした周辺対策のサポートなどを行う。

 「競技会場や関連施設の運営はあくまで組織委員会主導で、警備も自主警備で行うのが原則です。その上で我々の役割は、治安のプロとして、隙のない安全対策が実施できる環境づくりやアドバイスを行うことです。それと同時に、大会はもとより、開催都市である東京の安全と安心を確保していくことも、警視庁が総力を挙げて取り組むことが求められます」

 五輪大会という大規模イベント警備等の諸対策を学ぶため、前回のリオ大会も視察した。過去大会と比較して、東京2020大会は3つの大きな特徴があり、その点を踏まえた諸対策を行わなければならないという。

 「一つ目は、首都東京の中心で行われる大会であること。多くの人々が生活し、通勤・通学はもとより、国内外の重要施設が集中している大都市の中心での開催は過去にありません。二つ目は、点在する競技会場で行うこと。他の大会は『オリンピックパーク』として開催エリアを囲み、機能を集約させたので、警備も輸送も集中させることができました。しかし東京は点在する施設で行うことが決まっているため、各所で警備や輸送体制を構築しなければなりません。三つ目は、海に隣接する大会関係施設が多いこと。海からのリスクに備え、海上セキュリティーの配慮も必要です」

リオ大会の選手村周辺の様子。銃を携帯した国家治安部隊(州軍警察)が村内を巡回していた。上の写真の右が冨田管理官(提供:警視庁)

情報提供と共有できる仕組みが真の連結をもたらす

 冨田管理官が現職について3年半。警備総合対策担当として関係機関と調整しながら、大会本番に向けさまざまな警備計画を立ててきた。

 関係機関と一言で言っても、組織委員会をはじめ、東京都、内閣官房、2019ラグビー組織委員会、各自治体、海上保安庁、東京消防庁、大会スポンサー、警備業協会、施設管理者など、極めて多様だ。それらの機関とともに、安全対策を盤石なものとするためには、「真の連携」が必要だという。

 「真の連携のためには、関係機関が常に情報を提供しながら、それらを共有し、意見を協議し合える仕組みが必要です。現在、定期的にそれぞれの機関が集まる協議の場を作りましたが、非常にいい連携ができはじめていると感じます」

 過去3年半、日々新たな課題に直面してきたが、この「真の連携」のもと、その時々の「やるべきこと」を見出し、「できる」ことは粛々と行い、「できない」と思えることも「できる」ことへ変えていった。これからもその基本的な姿勢は変わらないという。

 「大会が近づくにつれ、さらなる課題が出てくると思います。一方で、総合対策の体制強化や、庁内の連携強化も求められます。さらには、警視庁が本来担うべき都内の日常の安全安心の維持はもとより、サイバーセキュリティー、反社会勢力の排除、繁華街対策、他言語対応なども行う必要があります。そうした状況下では、さらに合理的かつ機能的な組織の運用と隙のない計画が求められます。不安がないといえば嘘になりますが、2年後には胸を張って頑張り切ったと言えるよう、その先を見据えながら、まずは来年のラグビーワールドカップで万全の体制が取れるよう、準備を進めたいと思います」

警視庁オリンピック・パラリンピック競技大会
総合対策本部 警備総合対策担当管理官

冨田 利雄氏冨田 利雄 とみた としお
1962年千葉県船橋市生まれ。叔父が警視庁に勤務していたこともあり、高校卒業後、1980年に警視庁に入庁。駒込署地域課課長代理、警察庁生活安全局地域課係長、人事第一課係長、牛込署地域課長、第八機動隊副隊長を経て、2015年2月から現職。

    

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