第52回 コロンブスによってヨーロッパに伝えられた唐辛子
ピリリッと辛いペペロンチーノ(唐辛子)。イタリア語名の語源となるラテン語では、箱を意味します。唐辛子内部の種が、まるで箱の中にしまわれているかの様に見えるからだそう。
そんな唐辛子の歴史はとても古く、メキシコやペルーにおいては、約9000年前からその使用の歴史があります。
そして15世紀になると、コロンブスによって、アメリカ、スペインを経てヨーロッパ全域に唐辛子が伝えられました。当初コロンブスらは、一獲千金を夢見て、当時の貴族たちに愛され、高値で取引きがなされていたシナモンやナツメグの様に、唐辛子を魅惑の高級香辛料として広めようとしていたのだとか。しかし結局、裕福な人々にはほとんど見向きもされずに、その計画は失敗に終わったと言われています。当時の貴族たちにとって価値のあるものとは、はるばる遠くの原産地から運ばれてくる、希少性のある舶来品。どのような気候風土にも適応し、鉢植えなどでも簡単に栽培できるお手軽な唐辛子の特性こそが、仇となってしまったという訳です。
その反面、今まで高価な香辛料には手が出せずにいた一般庶民の間で、その評判は瞬く間に広まりました。特に南イタリアの貧しい地域に暮らす人々にとって唐辛子は、日々の質素な食事の風味づけとなり、“庶民の(貧民の)スパイス”はたまた、その辛さにはまる人々が急増した事から“庶民のドラッグ”の別名を持つほどでした。
現在でも、イタリア半島のつま先部分、カラブリア州は唐辛子をこよなく愛する地域として有名です。冷蔵技術のなかった当時、この地域では唐辛子の有名な成分、カプサイシンの持つ殺菌作用や抗菌作用を利用して、生肉を保存していました。その伝統により、今でもカラブリア州では、生ハムやサラミといった塩漬けにした肉の熟成にたっぷりのペペロンチーノを擦り込む習慣が残り、見るからに辛そうな真っ赤なサラミなどが有名です。