第51回 南イタリアに伝わる、別名イワシのエキスと呼ばれる逸品の魚醤
前回に続き南イタリア、サレルノにある小さな町チターラで行われている伝統的漁法、メナイカ漁のイワシの話題です。今回はその地で作られるイタリアの魚醤“コラトゥーラ”を紹介します。イタリア語で濾過物を意味するこの名前。同じ名前なのは単なる偶然なのかと思っていたのですが、実はチターラ地方のコラトゥーラの製法こそが、その名前の由来だったようです。
イタリアのコラトゥーラの多くは、アンチョビを作る際の副産物であり、漬け込んだイワシから出てくる旨みを含んだ水分を熟成し、濾過と加熱凝縮を繰り返して作る、ギリシャ式と呼ばれる製法が主流です。一方、チターラ地方をはじめとするラテン式と呼ばれる製法は、イワシに岩塩をまぶして24時間置き、水分を抜きます。その後、テルツィーニョと呼ばれる木製の小樽に、塩と共に一尾一尾丁寧に向きを揃えて並べ、小さな木蓋をして重石を載せ、熟成室で18~24カ月熟成させます。重石をすることで、熟成中の発酵によって溶けたイワシの身が、樽の上部に液体となって溜まります。熟成後、樽の底に小さな穴を開け、15~20日かけて、樽上部に溜まった液体を一滴一滴ポタポタと抽出します。その際に、再度樽内部の整列したイワシの層を通過することで、穴から出てくる液体は、味わいに深みが増し、濾過され透き通った琥珀色になるのです。この天然の濾過システムこそが、“コラトゥーラ”。濾過物を意味するその名前の由来という訳です。
すべての液体が抽出されると、樽の内部に残るのは乾燥した魚の骨と少量の身のカスのみ。これが、このコラトゥーラがイワシの身のエキスと言われる所以。決してアンチョビ作りの副産物ではないのです。
古くは、貧しい人々が鮮魚の代用品として、パスタや茹で野菜に用いていた調味料。今日では、世界中の魚醤の生産者たちもが驚く、魚醤の概念が変わる逸品と言われる高級品です。