2008年10月20日号
[プロフィール参照]

三田村秀雄先生

みたむら ひでお

1974年慶應義塾大学医学部卒。1981〜4年、米国留学。1992年慶應義塾大学講師、1995年同助教授、1999年心臓病先進治療学教授を経て、2004年より東京都済生会中央病院副院長。慶應義塾大学客員教授。医学博士。専門は臨床心臓病学。

続 医療NOW

(4)弱った心臓と迷える医者

 外見は何ともないのに走らない車。原因はエンジン故障だったりすることがあります。あなたのエンジンはだいじょうぶですか?

名医?それとも…

 医者は病気を治してくれる人、と思っていませんか。だとしたら期待過剰です。そもそも何の病気なのかを診断することさえ難しいことがあります。やってくる患者さんが「心臓が悪いんです」と教えてくれるわけではありません。心臓が悪いなどとはこれっぽっちも思っていない患者さんの中に、重篤な心臓病が隠れているものです。それを診断できるか否かが名医と迷医の分かれ目でしょう。

 どうも最近、息が切れる。坂道や階段がおっくうになってきた。私がいつも口にしているセリフです。でも誰も真剣に聞いてくれません。たとえ聞いてくれたとしても、運動不足が悪い、夜更かしのし過ぎだ、と切り捨てられるのがオチです。身に覚えのある自分はつい、そうかもしれない、と謙虚なものです。

 ところが中には心臓に欠陥があるために、そんな症状を起こしている人もいます。重大なことですが、それを見分けることは簡単ではありません。賢明な医者は「ひょっとしたら、あなたは心臓が悪いかもしれない」と言います。当たれば尊敬され、外れれば感謝されるからです。

エンジンが不完全?

 迷医から名医に近づくには、もう少し深い心臓病の理解が必要です。心臓は身体のエンジンみたいなものですから、それが故障すると馬力が低下します。動くと余計に息が切れるようになり、2階に昇るのも面倒になります。さらに進むと血管から水分がしみ出て「むくみ」になります。あなたの足が太く見えるのも、もしかするとむくみかもしれません。迷医にはわかりませんが。

 ひどくなると肺の血管からも水分がしみ出るようになります。最初のうちはそれによって夜中に咳込む程度なので、風邪とよく間違えられます。それがさらに進んで空気の入るスペースが水浸しになってしまうと、もう苦しくて横に寝ていられません。かろうじて枕を高くしたり、あるいは座ったままの姿勢で寝ようとします。ここまで来るともうこれは単なる風邪じゃない、運動不足のせいでもないことに気づきます。近所迷惑と知りつつ、真夜中に救急車のお世話になったりします。

 名医ならこれは心不全による症状だ、と当てられます。いや、診断できます。心不全とは心臓が完全でない、という意味ですが、病名というよりは、弱った心臓からの血液の送り出しが滞って身体のいろいろな場所で水があふれ出した状態、のことです。無理をしたり、風邪をこじらせたり、塩分を取り過ぎたりして起こります。たいていは元々心臓に心筋梗塞や心筋症、弁膜症などの病気があります。残念ながら現代の医学でも、このような特定の心臓病を完全に治すことはできません。それでも心不全の症状を和らげ、弱った心臓の一部を修復し、癒し系の薬を投与して悪化進行を遅らせる、といったことはできるようになってきています。

 やはり名医にかからなければ、と心配になってきたでしょう。誤解しないで下さい。私が名医だ、と言っているわけではありません。でも想像していただくのは自由です。

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