三田村秀雄先生
続 医療NOW
(3)騙されてはいけません
苦しい心臓の痛み……。
効果的な治療法を三田村先生がそっと教えてくれます。
痛みを止める方法
子供の頃には身体のことなど微塵も気に掛けなかった人が、年かさが増すと途端に頭が痛い、歯が痛い、腰が痛い、と言い出します。幸い、世の中には痛み止め、と称する薬があって、大抵はこの種の痛みを和らげてくれます。では、心臓の痛みもそんな痛み止めで良くなるのでしょうか?
心臓の痛みは心臓の筋肉を栄養としている冠動脈の流れが滞って、その末梢が酸素不足に陥るために生じます。痛み止めの薬がもし効いたとしても、心筋にとっての酸素不足は一向に改善されません。痛みが和らいだからといって放っておいたら心筋細胞が死んで、心筋梗塞になってしまいます。
騙されてはいけません。大事なのは、痛みの元を治すことです。心筋の酸素不足を治す、冠動脈が狭くなっているのを治す、それが本来の治療というものでしょう。それがうまくいけば、痛みも自動的に取れるはずです。
特効薬を使う
ではどうやって冠動脈を拡げるか? 昔からニトロ、と呼ばれる特効薬があります。正確にはニトログリセリンのことで、ダイナマイトの原料でもありますがこの薬は大丈夫です。舌の下から吸収させると速効性を発揮するので、飲み込まないで舌下錠として使うか、スプレー式のもので吹きかけます。
すると僅か1〜3分で、サーっと痛みが引いていきます。この薬は血管を拡げる作用があり、冠動脈の狭いところが少し拡がるだけで血流が改善し、痛みが引くわけです。狭心症のある人はニトロを肌身離さず持っています。
奥さんに持たせておく、というご主人がたまにいますが、いざというときに、ちゃんと渡してくれると信じているのでしょうか。騙されてはいけません。
最高の治療法
ニトロさえあれば心臓の痛みは解決か、というとこれも騙されてはいけません。狭心症にはよく効くのですが、心筋梗塞となると冠動脈の壁に突然亀裂が入り、血栓ができ、それが血管の内側を塞いでいます。そんなときにニトロで血管を少し拡げたくらいでは、血液が通過しません。起こってすぐなら血栓を溶かす薬を使う手もありますが、時間が経った後や、血管が硬く細くなっているときにはもっと手荒な方法を用います。
カテーテルという長い管を血管に通して、冠動脈にまで進め、狭くなっているところを風船で拡げたり、回転する刃で削ったりします。狭くなった部分を迂回して臨時の血管を植え付けるバイパス手術もあります。うまく血液が流れるようになると痛みもなくなり、たいていの人はこれで治った、と思います。
騙されてはいけません。このような治療は確かに劇的な効果をもたらしますが、あくまで狭くなった部分を治したに過ぎません。年月を経て形成された動脈硬化はあらゆる血管に及んでいて、今度は別の血管に別の心筋梗塞が生じる可能性もあります。そっちも同じやり方で治療するとなるとモグラたたきみたいなものです。じゃあどうしたらいいのか?
タバコをやめ、メタボにならないことです。簡単でしょ。いや、これだけは信じて下さい。