2008年8月20日号
[プロフィール参照]

三田村秀雄先生

みたむら ひでお

1974年慶應義塾大学医学部卒。1981〜4年、米国留学。1992年慶應義塾大学講師、1995年同助教授、1999年心臓病先進治療学教授を経て、2004年より東京都済生会中央病院副院長。慶應義塾大学客員教授。医学博士。専門は臨床心臓病学。

続 医療NOW

(2)心臓が痛む話

 心臓に魅せられた医師・三田村先生の「心臓の話」第二弾は、心臓にまつわるちょっとコワイお話です。

悲鳴をあげる心臓

 ストレスの多い世の中ですから、心臓の弱い私なんかは、しょっちゅう心を痛めています。

 幸い、心と違って心臓が痛むことはそうめったにありませんが、でもそんな、あっては困ることが、ときには起こります。何しろ心臓は全身に血液を送っているポンプですから、そこに故障が生じると命にかかわってきます。

 心臓が痛むといっても患者さんが痛みを感じる場所は心臓の真上とは限りません。むしろ胸全体に重く、締めつけられる痛みとして感じることが多いようです。たまに顎や奥歯、あるいは左肩などに痛みを感じる人もいます。それもチクチクとか、キリキリとか、ズキンズキンといった痛みではなく、もっとジワーッと圧迫を感じるものです。動くことも、声を出すことさえも辛くなるような痛みです。冷や汗を伴うことがしばしばあります。

 そのような心臓の痛みは瞬間的な秒単位のものではなく、分単位で生じることが多く、狭心症とよばれます。別に痛みを訴える人の心が狭い、と非難しているわけではありません。心臓の筋肉に栄養を供給している冠動脈とよばれる血管の内側が狭くなってトラブルを引き起こす病気、という意味です。

 心臓の筋肉への血液の供給が足りなくなると、細胞は酸素不足でアップアップ状態になりますが、そのとき、痛い、と悲鳴をあげるわけです。

何で痛くなるの?

 冠動脈が狭くなるのは、血管壁の内側にコレステロールなどがたまるといった動脈硬化によるものがほとんどで、これは年月をかけて徐々に進んでいくものです。

 とくに運動中など心筋の酸素需要が増加したときなどに、狭い血管を通しての血液供給が追いつかず、胸痛を覚えることになります。そんな場合には運動を休めば、また元に戻りますが、じっとしていても、急に冠動脈が狭くなる場合があります。

 ひとつは冠動脈の壁が何かの加減で急に縮む、冠攣縮とよばれる現象で、タバコ好きにときどき観察されます。これは夜明け頃に狭心症を起こすことでも有名です。

 もうひとつは動脈硬化で病的になった冠動脈壁の一部に亀裂が入り、血管内出血みたいな事故によって引き起こされます。

 するとそれを止血しようと血小板などが急に集まりますが、そこでできた血の塊、血栓が血管の内腔を塞いでしまうものです。善意の助け船があだになるというわけです。

心臓が強い人ほど要注意!

 冠動脈の血流が完全に途絶えても、数分程度で再開通すれば、やがて痛みは消失し、元の状態に戻ります。それが先ほど述べた狭心症ですが、もし血流の途絶が30分を超えると、痛みが長引くだけでなく、死ぬ細胞が出てきます。

 そのような場合には狭心症とは区別して、心筋梗塞とよびます。およそ6時間もすればその周辺の細胞はみな、死んでしまい、もう元には戻りません。痛みも無くなりますが、その部分の心臓の筋肉が動かなくなってしまい大変なことになります。

 一見、心臓に毛が生えていそうな、強そうな人ほど心筋梗塞は起こりやすいので、私は大丈夫ですが、みなさんはくれぐれもご注意ください。

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