日本は世界で6番目の海域を持っている。その中で東京都の海は47都道府県の中で一番広いということをご存知だろうか。東京の管轄は日本の全海域の約4割を占め、複雑な海底地形と黒潮の流れにより、日本有数の好漁場となっている。あまり知られていない東京の漁業の実態を追う。
(取材/中本敦子)
「東京都の水産業」と言ってもピンとこない人も多いだろう。実は東京都に接する排他的経済水域(図1)は、47都道府県でも最も広く、日本全体の38%を占めている。黒潮が流れ、海底地形が複雑なことから、非常にいい漁場となっており、そのため全国から多くの漁船が来て操業している。
平成18年の漁獲金額は、35億8100万円で、ここ数年30億円前後で推移している(図2)。しかし、昭和末〜平成元年頃は年間70億円もの漁獲高があり、この20年で半減したことになる。これは、都に限ったことではなく、全国的に見ても漁獲量は半減した。水産業の衰退は、資源(魚)自体が減っていること、消費者の魚離れ、漁業従事者の減少など様々な要因があげられる。
東京都産業労働局農林水産部水産課の藤井大地氏は「食の安全、自給率の問題、また原油急騰のための一斉休漁などもあり、漁業への注目は上がってきています。これが一時のブームにならないよう、都も様々な取組みをしていきます。都民の皆さんも、まずは東京都の漁業の現状を知ってほしい」と訴える。
それぞれの特徴を生かして
東京都の水産業は、大きく3つに分けられる(図4)。多摩川などの河川での「内水面漁業」、東京湾内での「内湾漁業」、そして、伊豆諸島、小笠原諸島での「島しょ漁業」である。
中でも一番漁獲量が多いのは島しょ漁業で、全体の8割近くを占める。年間を通じ、キンメダイやカジキ類が多く漁獲されるほか、春のカツオやトビウオ、夏のタカベ、秋のムロアジ、冬のイセエビなどの漁獲量が多い。また寒天やところてんの原料となるテングサは、日本屈指の水揚げを誇っている。
一方、東京内湾には、かつて5000人を超える漁業者がいたが、昭和30年代以降、埋立や工場廃水などにより漁場環境が急速に悪化し、多くの漁業者が転業を余儀なくされた。その後、公害規制の強化や環境に対する関心が高まったことから、東京湾の水質は徐々に改善され、現在はスズキやカレイなどの刺網漁業や、アサリの採貝漁業、アナゴのはえなわ漁業などが営まれている。
また、多摩川、秋川などの水質も一時期は汚染がひどかったが、現在は水質の改善も進み、年間100万尾ほどのアユの遡上がみられるまでになっている。
これからに向けての課題
東京都では、水産業の活性化を図るため、大学等と連携した試験研究や、漁業者の支援、広報活動にも力を入れている。
伊豆諸島の海では、現在、磯が砂漠のようになり海藻が消失してしまう「磯焼け」が深刻化している。このため、東京都、大学、町村、漁協等が一体となって取組みを行っている。中でも、海藻の胞子を袋に詰めて磯焼けの場所に設置したり、海藻の生えやすい魚礁を開発するなどの取組みを行っている。
また、伊豆大島にある栽培漁業センターでは、漁業者が放流を行うトコブシ、サザエ、アワビなどの稚貝生産にも力をいれている。これらはどれも効果が現われつつあり、将来へ繋がる展望も見えてきた。
あとは、後継者の育成が大きな課題だ。漁業の場合、仕事の片手間や定年退職後に始めることは難しい。若い時から腕を磨く必要があり、船の値段も決して安いものではない。都では、漁業希望者への受け入れ体制の整備や、低利の融資などの支援もしているという。
一消費者として、東京の水産業の現状を知ると同時に、環境に対する意識をさらに高めることが重要だと感じた。