企業と市民の協働の方向性をさぐる
今年度環境経営学会の研究報告大会が、5月23日(金)〜25日(日)の3日間、東京大学駒場リサーチキャンパスにおいて開催された。冒頭、学会会長山本良一氏より「今、地球自然環境は存亡の危機的状況にあり、10年以内に破局の兆候が現れると言われているが、解決の道がないわけではない。それが『エコイノベーション』である。地球温暖化をストップさせるための薬は、エコイノベーションとエコプロダクトの普及である。環境経営学会の会員諸氏が大変な努力をされている。今後のご健闘を切に期待したい」と挨拶があり、中味の濃い講演、研究報告、シンポジウムが繰り広げられた。今回は、この中から石原都知事の講演を紹介する。
地球環境保全の根本は哲学の問題
(研究報告大会・基調講演より抜粋)
●東京都知事 石原慎太郎
科学技術や医学が進展する一方、地球自然環境は危機に直面している。私は科学分野の専門ではないので、ひとりの人間として、行政責任者として、文明論の観点から環境のお話をしたい。
公害は「国家の責任」
私が環境庁長官を拝命したのは、公害問題が指摘された時期で、水俣病、四日市の喘息がクローズアップされた。長官就任早々、周囲の反対を押し切り、水俣病の現地を訪問し、その悲惨さを直視した。また、在住作家石嶺氏の『水俣の報告』を読み、環境問題への認識や人生観を大きく変えるきっかけとなった。
政治、行政の不作為がいかに住民を痛めつけ不幸におとしめるかを痛烈に再認識させられた。繊維産業は発展途上国にとって、先進国に追いつくために、導入しやすい産業と言える。当時、日本も同じく繊維産業が盛んで、アセトアルデヒドが必要であった。
化学会社であるチッソ社はアルデヒド系触媒の生産占有率は80%であった。調査の結果、水俣病は、有機水銀の工場排水が原因だと判明した。当初、発覚時は栄養問題ではないかと言われたが、因果関係はなかった。真相は、触媒生産に悪影響を及ぼすとして、通産省筋が事実を握りつぶした。当時の通産大臣は、実態を軽視し、企業優先政策を堅持していたが、大臣としての私は公害の原因を正式に認め、「国家の責任」であることを明言した。
地球環境は時間との競争
環境問題を考えるに当たっては、これを文明論として、歴史認識をしっかり持って、物事を考えることが大切だ。実は地球環境問題については、早くから有識者は認識していた。
約25年前、宇宙物理学者ホーキング博士の講演を聴講した。
ホーキング博士によると、地球文明の寿命は、地球時間であと約100年という。もしこの説が正しければ、あの講演からすでに25年過ぎたから、残すところ75年ということだ。
地球環境保全の根本は哲学の問題である。哲学者プラトンが言う、物ごとの「存在と時間」を考えることである。仏教では法華経も同じく、「存在と時間」を説いている。
地球環境の将来はいまや時間との競争になってきた。環境悪化を食い止めるため必死の努力が必要である。山本先生は、「ティッピング・ポイント」(臨界)を越えないうち、目安として、「これから5年以内に食い止める手をしっかり打て」と警告している。私たちの子孫の将来を考えるとき、果たして地球環境はもつのか不安視している。
企業は経済合理性を追求するあまり、自然環境破壊に対する認識が足りない。過日、経団連のトップの一人と面談した折、「世界の趨勢なら、経団連も考えざるを得ない問題だ」と話されていたが、この認識の低さに私は大いに抗議した。いま自分は地球環境のために何をするべきかを考え、行動するときである。
20年、30年後の人類のためにどうするかの認識が大事。しかし、どうも人類は変革できないように思う。残念ながら、地球環境の持続は極めて難しい。これが私個人の結論である。大食糧危機が5年のうちにやってくると言われる。日本は食糧自給率が低いから非常に困る。幕の内弁当を例にとると、食材の90%は外国からの輸入品だという。
東京都は地球環境保全のため、貧者の一燈の思いで、できることは実行するつもりだ。数年前、ディーゼルエンジン車の排出ガス問題では、基準を厳しくし、都内への乗り入れ規制強化を行った結果、大気汚染は大幅に改善した。近隣の埼玉県、神奈川県などは、東京都の政策に同調して改善効果を上げたけれども、なぜ政府は適時適切にやらないのか。環境大臣は法改正を行ったと言うが、その効果は疑わしいものだ。
3〜4年前に、あるレストランで、作家の開高健氏が残したという色紙の「言葉」に惹かれた。色紙は古く、煙で真っ黒にすすけていた。そこに「たとえ地球が明日滅びるとも、君は今日りんごの木を植える」という言葉がかかれていた。東京都もりんごの木を植え続けます。皆さんも一緒に木を植えましょう。