大消費地に近いという特徴を生かし、近年、東京の畜産農家が“東京ブランド”をつくるなどして頑張っている。東京の畜産業は畜産農家の長期的な減少とともに衰退の一途を辿っていたが、ここ数年、山間部への都市化の波が鎮静していることや、美味しさや安全性を大切にした新たな戦略で、衰退に歯止めがかかってきている。今回は、東京ならではの畜産業を追ってみる。
(取材/中本敦子)
衰退から横ばいに
東京都内には三多摩、島しょを中心に、約430戸の畜産農家がある。東京の畜産業は、高度経済成長と反比例し、1960年代に一挙に衰退した。都市化の急激な進展に伴い、土地の急騰、環境衛生面の制約など、大きな課題にぶつかったのだ。
しかし、近年、畜産農家たちは、さまざまな問題点を克服しながら、大消費地を控えた立地上の有利さを生かし、また健康志向、安全志向のニーズに合わせて、こだわりのブランドをつくるなどして、挽回につとめている。
その結果、右肩下がりだった東京都の畜産物の生産量、生産額は、ここ数年、横ばいになってきた。それでも東京都内の畜産物の自給率は、1・7%であるのだが……。
総生産額の内訳は、生乳(牛乳)が半分以上を占め、次いで牛肉、鶏卵、豚肉となっている。
東京産のおいしい牛乳
意外と知られていないが、東京には牧場が82カ所ある。規模の大小はあるものの、それぞれが工夫をこらし、新鮮な生乳を都民に提供したり、アイスクリームやヨーグルトに加工して販売するなどしている。生乳に関していえば、都の自給率は3・7%と、畜産物では群を抜いている。
23区唯一の牧場である「小牧牧場」(練馬区)では、新鮮なしぼりたての牛乳でアイスクリームを、日野市の「アルティジャーノ・ジェラテリア」は、地元の野菜や果物を使ったイタリアンジェラートを製造・販売している。また、町田市では酪農家が力を合わせて「東京みるく工房ピュア」を設立。良質な飼料を使って乳牛を育て、こだわりの低温殺菌牛乳として市内で販売している。
その他、「道の駅八王子」で販売している「MO―MO」、世界で一番小さなヨーグルト工房とうたっている「磯沼ミルクファーム」など、それぞれの特徴を打ち出した製品造りで注目を浴びている。
都のバックアップとともに
都でも一昨年、東京都内の畜産業の将来展望を示し、畜産振興の指針とするために、「東京都畜産振興プラン」を策定した。このプランは、都内畜産業の現状を踏まえ、安全・安心で個性的な畜産物の提供と、子どもたちと畜産のふれあいを柱とした食育を進め、魅力的な畜産業を育てていく方向性を示したもので、東京都産業労働局が作成。
具体的には、東京都の開発した銘柄豚「TOKYO X」2万頭、「東京しゃも」3万羽の出荷が目標。また、カテキンを利用して飼料への抗生物質の使用を低減する研究や、家畜飼養現場での衛生管理の徹底、畜産の生産情報の記録・提供なども推進。青梅畜産センターを食育の拠点とし、いのちの大切さを理解し、食べ物に感謝する心を育む食育の推進などを実践している。
生産者と都が協力していくことで、「東京ブランド」が確立し、東京ならではの畜産業の発展につながっていくことだろう。