「ねんねんころりよ おころりよ ぼうやはよいこだ ねんねしな〜♪」 誰から教えてもらったわけでもない子守唄なのに、誰もが口ずさむことができる。命の唄であり、平和の唄であるという子守唄。その子守唄を通して子育て支援をしているNPO法人「日本子守唄協会」の代表・西舘好子さん(67)にお話をうかがった。
(取材/粕谷亮美)
今、なぜ子守唄なのか
日本子守唄協会のパンフレットには、「百万回のメールより、一度でいいから抱きしめて」という言葉が掲げてある。子どもにまつわる事件が増えているなか、子どもの問題は親の問題であると西舘さんは言う。
「親の想像力の欠如が、子どもに影響しているのではないでしょうか。ヒステリックに怒るだけでは、子どもには何も伝わりません。子どもに対して伝える技術がないのです。例えば会津地方では、子どものお尻を叩くときに“この子宝め!”と言ったのだそうです。小さな子どもにとっては“子宝”が何なのかはわからないのだけれども、成長したときに親の思いが言葉から通じてくるのではないでしょうか」
子守唄というと、真っ先に思い浮かぶのが「五木の子守唄」や「竹田の子守唄」。もの悲しいイメージがあるが、日常の暮らしをおもしろおかしく唄にしたものもたくさんあると言う。
「よくわらべ歌と混同される方がいますが、わらべ歌は遊びの中で子ども自身が歌うもの。でも、子守唄は大人が子どもをあやすために即興でつくった唄です。私たちが子守唄を集めたところ、1ヵ所で1万ちかくも集まりました。親がトントンと赤ちゃんの背中を叩きながらゆったりと唄うリズムによって、子どもが安心して眠りにつけるのです。そういう親子の時間が今、失われつつあるのではないでしょうか」
携帯電話を片手に持ちながら、子どもを抱いている母親の姿を目にすることも多い昨今。西舘さんが子守唄を提唱している意味がよくわかる。
命と平和の唄 子守唄
「子守唄が弾圧されている場所もあります。部族闘争が一番はげしい地域です。育った土地のにおいをもっているので、子守唄を唄うとどこの出身かがわかってしまいます。ですから、母親は無言で子どもを抱かなければならない。とくに戦争中は唄えないというわけです。子守唄は、平和の象徴といえるのではないでしょうか」
その平和の唄である子守唄は、日本でも三度の受難の時代があったという。
「『ぼうやはよいこだ、ねんねしな〜』は江戸時代にはやった子守唄です。この唄の一度目の受難は、西洋に追いつけ、追い越せという明治維新のとき。国を一体化するために西洋音楽を取り入れ、利用しようとしました。そして、次は戦争中です。軍国主義下の日本は国のために役立つ子どもが必要なわけです。子守唄は公の歌ではなくて個人の唄ですから、『お前がいかにかわいいか』ということを唄うことは非国民というわけです。そして、三度目は戦後。あらゆるジャンルの音楽が入ってきて、子守唄は衰退していきます。しかし、それでも子守唄は脈々と唄い継がれてきているのです」
平成12年に設立された日本子守唄協会は、第1回「子守唄フェスタ」を富山県で行った。終了後、参加者の誰の目にも涙が光っているのを見て「子守唄には力がある」と感じた西舘さんは、その後も各地で子守唄を広めながら講演や公演活動をしている。
「子守唄を唄うだけの会と思われがちですが、そうではありません。『みかんとコタツと冬の空』というテーマで家族の団欒について考えたり、下町の路地の話をしたり、子守唄をまん中に据えて、親子の絆づくりをし、家庭の平和から国の平和、世界の平和を願って活動しています」
小さくてやわらかな命あるものを胸に抱いたときに、自然にわきおこる「子守唄」。口ずさむメロディが、平和の扉を開けるのかもしれない。
■出版物・CD等
相田みつを・西舘好子の子育て応援ブック『いちばん大事なこと』(CD付)
ダイヤモンド社発行 ¥1575
うたってよ子守唄 西舘 好子【著】
小学館 \500
『赤ちゃんのこころが育つ子守唄「ねんねんころり」』(西舘好子/著 赤ちゃんと一緒にうたえるCD付 全10曲)
エクスナレッジ発行\1890
CD すくすくのびのび「こもりうた」第1集、第2集
歌詞・楽譜・伴奏コード付 日本子守唄協会発売 各\2000
・台東区子守唄講習会
日時:9月27日(土)
会場:日本堤子ども家庭支援センター にこにこひろば
主催:台東区
講師:稲村なおこ(歌手)/久保祐子(ピアニスト)
西野一夫(ギタリスト)
・「親学を考える」
日時:10月13日(月)
会場:青梅市民会館ホール
主催:NPO法人 日本子守唄協会
出演:橋史朗(明星大学教授)
西舘好子(日本子守唄協会代表)
川口京子(歌手)/長谷川芙佐子(ピアニスト) 他
・「子守唄コンサート」
日時:10月24日(金)
会場:文京シビックホール 小ホール
主催:文京区心身障害福祉団体連合会
講師:西舘好子(日本子守唄協会代表)/稲村なおこ(歌手)
川口京子(歌手)/長谷川芙佐子(ピアニスト)