「恵泉女学園大学」
畑仕事が必修科目
1929年にわずか9名の生徒から始まった恵泉女学園。他校にはあまりみられない「聖書」「国際」「園芸」の三つを柱とした創立精神に基づいた、ユニークな教育で知られている。現在は、中学校、高等学校、大学、大学院の4つがあり、三千名近くの学生・生徒たちが学んでいる。
今年で開学20周年をむかえる恵泉女学園大学は、多摩センター駅からスクールバスで10分ほどの緑豊かな場所にある。学部は人文学部(日本語日本文化学科・英語コミュニケーション学科・文化学科)と人間社会学部(国際社会学科・人間環境学科)の2学部で、「平和をめざす女性の大学」がキャッチフレーズだ。
学園の三本柱の一つである「園芸」は、学部学科に関係なくすべての1年生の必修科目となっている。それも、キャンパスに隣接した教育農場で、農薬や化学肥料を使用しない有機園芸。教育機関としては初めての有機JAS認定を受けた大学でもある。
1年必修の「生活園芸I」では、1区画1・5m×0・6m=0・9m²の畑3〜4区画を2人1組で受け持ち、そのほかにクラス全体で管理する畑がある。すべての学生が履修することから、「無理をしない、無理をさせない、懲りさせない」をモットーに教育プログラムが立てられている。
授業は年間を通じて週に1回90分のみで、夏休みの畑作業はない。長靴と麦わら帽子は学校側で用意し、実習のときはジャージに着替え、マイ軍手を用意して、いざ畑へ! お洒落な女子大生が、週に一度は農婦に変身する。春の実習ではミミズや虫にキャーキャー叫んでいた学生たちも、1年が終わる頃には食や命の大切さをしっかり学んでいるという。
収穫物を調理する
人間社会学部・人間環境学科准教授の澤登早苗氏は、学園に有機園芸を導入した農学博士。必修科目「生活園芸I」のプログラムを考案し、野菜の収穫だけではなく、学生たちに農場内、地域内、地球規模での循環を認識させる取り組みを行っている。
例えば、畑でよく見かけるポリマルチ。作物がうまく育つようにビニールシートで畑を覆うのだが、教育農場ではそれをしない。伝統的な農法である草マルチで覆う。その草マルチにしても、畑にはえた雑草を抜いたものをそのまま敷いたり、造園業にとってはゴミとなる刈込枝や刈草をもらい受けて利用している。また、農場内の通路には、剪定枝を細かく砕いてチップにしたものを敷きつめ、雑草がはえたり、雨で道がぬかるまないようにしている。
園芸の授業というと、どうしてもその成果として多くの収穫物を期待しがちである。しかし、園芸は自然が相手。天候などによってあまり収穫できないときもある。「収穫が最終目的ではないのです。どうしたらそうなってしまったのか。それを考える過程が大切です」と澤登氏はいう。そして、収穫後は、それを使って調理をするように指導している。最初から献立を決めて調理実習をするのではなく、収穫したものをどうおいしくするかを考える。
「生活園芸I」の応用編として2年生以上が選択科目として履修できる「生活園芸II」では、学年末の課題として、1人5点のレシピを提出させている。条件は、「自分が育てた野菜を使うこと」と「オリジナリティー」。学んだことを日々の暮らしのなかでも活かしてほしいと、毎年、全員(1人1点)のレシピをまとめた「MY RECIPE」というブックレットを作成。その後もレシピを増やせるようにファイリング形式にしてある。昨年はそのなかの9点を選んでパンフレットにした。完成メニューの裏にレシピ等を印刷し、ミシン目を入れてあるので、切り離してカードとしての利用もできる。
持続可能な環境・社会への関心
「生活園芸I」の授業は、今までの食生活を見直すきっかけにもなる。この牛乳の産地はどこか、パンに使われている小麦粉はどこからきたのか……。食の安全や地球規模の食糧難が予測される現在、産地や生産方法に目を向けることはとても大事なことだろう。
また、「生活園芸II」では、モロヘイヤ、ルッコラ、トウモロコシなど、できる作物から自家採種にも挑戦している。命あるものとの共生を実体験した学生たちは、「自然界には、不必要なものが存在しない」「私たちが生きているのは土や生物、植物すべてのお陰です」という感想を寄せている。「有機農業の根底にある、さまざまな生きものが共生しているとか、どんなに手をかけても思い通りにならないという考え方は、子育てに共通する点が少なくありません」とは前述の澤登氏の言葉。将来、結婚して子どもを育てるであろう女子大生たちに有用な授業になるにちがいない。
恵泉女学園大学
多摩市南野2―10―1
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e-mail:nyushi@keisen.ac.jp
http://www.keisen.ac.jp/univ/
※学校見学は日曜・祝日を除く10:00〜15:00、随時案内可。詳しくはお問合せを。