2008年6月20日号
<江戸の技と知恵の歳時記>
第6回 つりしのぶ
年ごとに暑さが増し、ヒートアイランド現象が話題になっている東京の夏。涼しさを求めるのは専らエアコンの昨今だが、地球環境に配慮して目や耳から涼をとってはいかがだろう。
江戸時代から伝わる夏の風物詩といえば「つりしのぶ」。かつて東京の下町では、ちょいと路地を入ると、さまざまに意匠を凝らしたその姿が、家々の軒下を飾っていた。
つりしのぶとは、「しのぶ」というシダ類の植物と山苔や竹を用い、井桁や筏、灯篭といった風流な形に仕上げた観葉植物。言ってみれば和風トピアリーだ。夏の午後、庭先や砂利道に打ち水をすると、冷やされた空気が、風鈴の音とともに吹き込み、つりしのぶのつややかな緑とともに夏の暑さを和らげてくれたのだ。
つりしのぶが登場するのは江戸時代。旗本や藩の屋敷の植木の手入れを任されていた職人が、お中元として贈ったのが始まりというのが通説で、明治から昭和初期にかけて庶民の暮らしにもすっかり定着した。
適度な湿り気があって、木漏れ日が差す樹の幹や古木・岩肌などに着生し、日本各地に分布していたしのぶだが、年々採取するのが難しくなり、今ではつりしのぶ職人は都内で僅か数軒となってしまったという。
今年の夏はエアコンを止めて、よしず、風鈴、つりしのぶの三点セットと打ち水で、“エコな涼”に徹するのも一興だ。