首都圏を取り巻くBJの環境
対応策は見つかるか―
前号までで、ビジネス・ジェット(BJ)とは何か、そして現在、直面している問題点を明らかにしてきた。
多くのユーザーはもちろん、今後、導入や利用を検討している人々にとって、BJはまだまだ使い易いとは言いがたい状況が続いている。
国土交通省が、遅ればせながら問題の重要性に目を向けて、腰を上げたことは紹介したが、首都圏を取り巻く環境は、すぐに対応策が見つかるほど簡単ではない。
多くの顧客が望む羽田は、第四滑走路が完成した後にも、定期便発着の申し入れを消化できる余力はないし、成田では遠くて人気はない。
石原都知事は横田の共用を強く望んでいるが、米軍がおいそれと対応してくれるとは思えない。百里の民間共用が予定されてもいるが、それとて成田以上に交通不便とあっては、利用者がこぞって増えることは期待薄と言わざるを得ない。
高額な料金に見合う
特典が用意されるべき
現在羽田では、一日3〜4便に限って、BJを受け入れていると言うものの、その手続きの煩雑さとか、通関業務の対応姿勢を見れば、海外からの顧客が気軽に利用できる体制とはとても言えない。
ターミナルに近いハンガーは当然、定期便大手が独占するところだし、不定期のBJは空港の隅に追いやられることになる。そこから車で通関となるが、手続きに何ら特典が用意されてはいないから、少なくとも30分、あるいはそれ以上、一般顧客と一緒に長い行列を作って待たされることになる。
高額な料金を支払っても、優雅なのは機中だけのことで、ここではむしろよそ者扱いを強いられている。
監督官庁たる国土交通省の航空局とすれば、高額の費用を支払っているからとて、殿様扱いをすれば、金持ちだけを大切にするのかとの批判を受けかねないし、わずか数人の顧客と数百人を運ぶ定期便との間に格差を付ける、明確な理由付けもし難いのだ。
わずか数人のVIPがもたらす経済効果、
政治的効果の重要性を考えたい
当然のこととして、ごく一部の手馴れた国内のユーザーだけが、いわば特権的に利用しているのが現状で、踏み込んで言えば、ただ受け入れているという体裁を作っているに他ならない。
前号でも書いたように、これで“ジャパン・パッシング”をされてもしようがない状況となっていることがご理解いただけるだろう。まずもって由々しき事態との認識を、持っていただきたい。
大手の定期便会社としても、ただでも足りないスロットを思えば、いくら高額といっても、大多数のユーザーに応えることが精一杯で、BJを自社で飛ばすことなど、二の次、三の次にしてきている。
しかしわずか数人と言っても、その数人がもたらす経済効果とか政治的効果を考えると、500人を一度に運ぶジャンボ・ジェットの顧客より、はるかに力のある人々が利用する手段であることに目を向けてほしい。
そんな本当の意味でのVIPが、日本は不便と決め付けて、敬遠してしまうことの恐ろしさを考えていただきたいのだ。
東京が、そして日本が、
世界の中核として存在し続けるために―
かつて明治政府の中核を担い、圧倒的な政治力を持った長州藩は、鉄道に理解を示さず、萩の町に鉄道を引くことを許さなかった。
そして百年余りが経過した今日、山口県はいわゆる「へそ」の無い県に成り下がり、最も多くの総理大臣を生みながらも、地域の中核都市は広島に取られ、多くの山口県民は北九州へ買い物に行くことになっている。
同じことが、この日本国に起きないと、誰が保証できるだろう。世界を股にかけて活動するVIPを受け入れる術がないことを、あれはぜいたく品だからと一言で片付けてよい理由などどこにもない。
確かに許認可を司る誰彼から見れば、ぜいたく品と見えるかも知れないが、はるかにレベルの高い人々が、ごく一般的に使う存在として、世界では認知されていることを改めて認識してほしい。
ここに紹介した以外にも、BJを受け入れる体制にはまだまだ多くの不備があるし、とても細かくは紹介し切れなかったが、まず我々自身が、BJの存在とその有用性を正しく理解し、認識することから始めようではないか。