経済界の大物を随員に伴って、アメリカの大統領が来日する機会があった。仄聞した話だが、随行各社からは自家用機をどこに降ろさせてくれるかとの問い合わせが、外務省に寄せられたという。
もちろん各社からの希望は、すべて大統領専用機と同じに羽田。しかし、羽田にそんな余力はないし、それ以外にも応えられる空港は東京近郊にない。鄭重にお断りし、大統領専用機への陪乗をお願いしたそうだ。
何故アメリカではビジネス・ジェット(以下BJ)が、ごく当たり前に使われているのか。そして何故わが国ではそれが出来ないのか。
この問題をどう考えて行くべきかを、シリーズで解明していきたい。
一人215万円は高いか安いか
自家用ジェットをチャーターして、アメリカ本土を往復すると、ほぼ3千万円のチャーター料がかかる。乗れる人数は14人ほど、一人当たりの単価はおよそ215万円だ。これを単純にファースト・クラスの運賃と比べれば安い運賃とはいいかねるが、さて、その内容を見てみれば―。
海外出張をするには、まず目的地までの予約が必要だ。日本からの直行便が飛ぶハブ空港が目的地ならさほど問題はないが、乗り継いで最終目的地まで、ローカル便も含めた予約がスムーズにいく保証はない。乗り継ぎの時間も無駄となる。
出国手続きだって、フライト2時間前のチェックインを求められるが、BJにはそんな必要はない。もちろんあの煩瑣なセキュリティ・チェックもない。あらかじめ定められたフライト時間に間に合うように、出国手続きを済ませれば良いだけだ。
更に言えばエクゼクティブ・ラウンジは使えないが、あれは体の良いバスの待合室みたいなもので、出発前にあわただしくミーティングを開くなど望むべくもない。見せ掛けの豪華さで顧客の目くらましをしているに過ぎないのだ。しかもその費用は全て顧客に付け替えているから、あれはサービスでも何でもない。
フライトとなれば、十数時間にわたって禁煙を強いられる。タバコを必要とする方々にとっては、一方ならぬ覚悟が必要だが、それが嫌さに重要な商談をキャンセルした財界人もいる。
ミーティングもシガーもOK
しかし、BJではそんな心配は無用だ。のんびりシガーでも燻らせていただこう。食事だってお酒だって、前もって伝えておけば、自分の気に入ったものを求める時間に供してもらえる。同乗しているのは、自分とその随員となれば、ミーティングをするにもだれ憚ることはない。到着までの時間を使って、これからの交渉内容の検討とか、相手先についてのレクを受けることができる。もちろんインターネットもOK。およそ制約だらけの乗り合いフライトとは訳が違う。
そして上述したように、乗り継ぎの心配は皆無だから、入国手続きさえ済ませれば、ダイレクトに同じ飛行機で目的地に到着できる。国内の移動はもっと簡単だ。フライト時間を気にすることはないし、セキュリティ・チェックもないから、機体のそばまで車を乗りつけ、すぐに出発できる。大きな空港では待たされることもあるが、BJが入れる地方空港なら、まず待たされることはない。
要するにBJを使うということは、時間と手間、そして閉鎖空間をシェアすることによって生まれる、さまざまな機能を買うことなのだ。
次号ではもっと踏み込んで問題点などを明らかにしたい。