スターライト法務相談
司法書士 星野大記
<Q>
Xさんの祖父(A)は昨年の夏に他界しました。Aと妻(B)の間には、子が3人(CDE)おり、妻のBと子CDはAよりも前に亡くなっておりました。子のCDには、それぞれ子(Aさんからみて孫)が2人います。そのCの長男が相談者のXさんです。
Xさんは、祖父のAさんから「公正証書遺言」を預かっており、その遺言の中で「遺言執行者」に指定されていました。この遺言では、相続財産の18分の9をXに相続させ、Eに18分の3、FGHにそれぞれ18分の2ずつ相続させるという内容になっていました。
この場合、①この遺言の内容に問題はないでしょうか?
また、②遺言執行者には、どういう権利義務があるのでしょうか?
<A>
①遺言の内容に問題はありません。
②遺言執行者は、相続人の代理人とみなされ(民1015)、財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しています(民1012I)。
【解説】
1.公正証書遺言について
遺言とは、自分の死後に効力を生じさせる目的で一定の方式によってなす単独の意思表示のことをいい、民法で定められた方式に従わなければ効力を有しない、要式行為(民960)です。
公正証書遺言は、①証人2人以上の立会いがあり、②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口述し、③公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させ、④遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押し、⑤公証人が以上の方式に従って作成したものである旨を付記して、これに署名し印を押すという方法で作成されます。
遺言の方法は、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」など、いくつか規定されていますが、「公正証書遺言」は、遺言の方法の中で内容の適法性と保管の確実性において特に優れているといえます。
2.相続分について
本件の場合、Aの相続人は、E、X、F、G、Hの5人であり、それぞれの法定相続分は、Eは3分の1 X、F、G、Hはそれぞれ、6分の1ずつとなります。
この点、遺言により、法定相続分と異なる相続分を指定しているので、内容に問題がありそうにも思えるかもしれませんが、本件においては問題はなさそうです。
兄弟姉妹以外の相続人には、「遺留分」という、その地位にあれば当然に受けられる相続分があります。子、孫が相続人となる場合は、被相続人の財産の2分の1です。
本件では、それぞれの遺留分は、Eは6分の1、X、F、G、Hはそれぞれ、12分の1ずつとなりますが、遺言の内容で指定されている相続分は、遺留分を侵害していないので、問題はないといえます。
3.遺言執行者について
遺言執行者は、財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しています。
仮に、本件において、遺言執行者を選任していない場合、例えば被相続人の預金が残っているZ銀行で相続人が解約手続きをするには、何が必要になるでしょうか。
金融機関によって異なりますが、一般的に、被相続人の出生まで遡る戸籍と戸籍の附票及び相続人全員の戸籍、戸籍の附票、実印の押印と印鑑証明書等が必要となります。つまり、E、X、F、G、H全員の実印の押印と印鑑証明書が必要となるわけです。本件のように、法定相続分よりも少ない割合で相続するE、F、G、Hは素直に応じてくれるか分かりかねます。
Aさんは、これを見越して、相続させる割合が一番多い、Xさんを遺言執行者に選任していたのですね。
4.まとめ
以上のように、遺言の方法、内容を決めて、それを相続発生後にスムーズに手続きを進められるようにするには、法律的な専門性が高く求められます。
また、遺言により、単なる法定相続とは異なる相続のさせ方を遺言者自身が決められることもお分かりいただけたと思います。
気になる方は、気軽に専門家にご相談されることをおすすめします。